研究課題/領域番号 |
26780268
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
佐藤 雅浩 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (50708328)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 精神疾患 / メンタルヘルス / 精神医療 / うつ病 / 社会学 / 流行 / 医療化 |
研究実績の概要 |
研究初年度にあたる本年度は、(a)精神疾患の流行に関する先行研究の検討、および(b)現代の精神医療関係者による「うつ」の流行に対する見解の調査、加えて(c)20世紀後半における「うつ」の流行過程に関する資料調査をおこなった。その結果、(a)に関しては国内で類似の研究が稀少であるのに対し、海外では社会学・医療人類学等の分野において、参考となる研究が複数存在することがわかった。ただしハッキングのループ効果概念を援用した実証研究は少数に留まっており、この点は来年度以降の検討を要する。つぎに(b)に関しては、国内学会のシンポジウムおよび精神科医の記した著作等により、現在の精神医療関係者が「うつ」の流行に対してどのような評価を下しているのかを調査した。その結果、見解の多様性はあるものの、総じて臨床家らは現代の無限定な「うつ」概念の拡大に対して懐疑的な態度を示していることがわかった。ただし臨床家らの問題意識は、向精神薬に関する製薬企業の営利主義的販売戦略や診断基準の未整備状況にあり、患者や臨床家自身の相互作用を含めた問題の考察は少ないことが判明した。最後に(c)については、主として1970年代以降のマスメディア資料および専門家むけ資料をデータベース化しつつ分析し、「うつ」を事例として精神疾患言説の大衆化過程を調査した。その結果、従来の研究ではかつての「うつ病」が重篤で比較的稀少な病と見なされていたことが指摘されてきたが、それは専門家間での認識であり、民間レベルでは1970年代から他の心因的な精神疾患と同様の言説化がなされていたことがわかった。即ち「うつ」に関する大衆的な語りは過去数十年で大きな変化はなく、臨床現場で「うつ」と診断される者の増加と、それに対する新たな言説化が90年代後半以降の変化であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記「研究実績の概要」で述べたように、当年度は研究課題に関連する先行研究の概略や、同課題に対する専門家による評価の現状、さらに現代に至るまでの歴史的な言説化の過程について調査をおこなった。その結果、これまで日本国内では社会学的な研究が手薄であった「精神疾患の流行」という現象に対する基礎的な諸事実を明らかにすることができた。とくに、これまで90年代後半以降の患者数の増加をもって、印象論的に論じられることが多かった「うつ」の流行に対して、それ以前の時代からの通時的な言説化の過程を分析できたことには社会学的な意義があったと考えられる。その一方で、本年度に明らかになった事項については、スケジュールの都合から報告の機会を得ることができなかった。よって、本年度はおおむね当初の計画どおりに研究が進展したと考えられるが、次年度以降に研究報告の機会を設けることが必要と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当課題の申請時に申告したとおり、次年度以降は主としてインタビュー調査と質問紙調査を併用し、現代における精神疾患の流行に関する諸アクターの意識や実態を明らかにすることにつとめる。とくに次年度においては、精神疾患の流行において重要なアクターである精神医療ユーザーに対する調査を優先的におこなう予定である。具体的には、調査会社をつうじて全国の精神医療ユーザー(精神科医療に患者として関与したことがある人物)に対してインターネットを通じた予備的な質問紙調査を実施し、受診のきっかけとなった出来事と精神医学的な知識の関係性、自身の経験にもとづく現代の精神科医療に対する評価、向精神薬の服用と自己意識の変化等についてインフォーマントの意識を明らかにする。その上で、彼らの中からインタビュー調査に応じてもらえる人物を選定し、上記の項目について半構造化された面接調査をおこなう。これらの調査によって明らかになった事項については、本年度の資料調査に関する分析結果とあわせて、何らかの媒体によって公開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に実施予定であるインターネット調査およびインタビュー調査について、調査を委託予定の企業数社から見積をとったところ、当初の想定以上に費用がかかることが見込まれた。このため資料入手の方法などを見直して本年度の支出額を抑制し、来年度の調査費用に充てることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
前記「今後の研究の推進方策」で述べたとおり、来年度には精神医療ユーザーを対象としたインターネットおよびインタビュー調査を実施する計画となっている。当該の次年度使用額は、翌年度分として請求した助成金額と併せて、上記調査の実施費用に充てる計画である。
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