研究課題/領域番号 |
26780276
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
内藤 準 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 助教 (00571241)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 社会学 / 自由 / 責任 / 機会の平等 / 社会階層 / ネットワーク / 差別 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本研究課題では,社会関係的な資源の有効性,責任ある自由な行為者として人びとが生活をおくるための条件と,その社会的メカニズムを探るための調査研究を計画している.それに関連して,平成26年度は以下の作業をおこなった. 社会学において資源分配を扱う社会階層研究の分野では,その成立以来の最重要な問題として「機会の平等」が研究されてきた.だが,その指標として長く用いられてきた「完全移動=世代間の地位の無関連性」に対して,近年するどい批判が投げかけられている.そこで,基礎概念である「機会の平等」の意味をシンプルな理論モデルで分析し,完全移動の概念をその指標として適切に用いるための条件を明らかにした. 個人の自由と社会制度ないし秩序との関係を明らかにすることは,社会学の中心問題の一つである.そこで,とくに具体的な社会現象としての就職時の統計的なジェンダー差別の問題に着目し,企業が統計的情報(予言)をもとにしておこなう差別的な採用行動が,個々人の離職傾向には男女差がなくても,実際に離職確率および離職率の男女差をもたらし,事後的に企業の差別行動を合理化するという,予言の自己成就のメカニズムを明らかにした.そして,そうした離職率の差があたかも本人たちの自由な選択による性別分業であるかのように現れることを指摘した. 近年,社会調査の標本抽出台帳として用いられることの多い選挙人名簿の電子化が進んでいる.それにともない具体的な標本抽出作業が大きく異なってくる.そこで,東京都の全自治体の選挙管理委員会事務局に対する質問紙調査をおこない,また八王子市において自らおこなった標本抽出作業の経験をもとにして,実践的ノウハウをまとめ,今後への示唆をおこなった. 次年度以降に計画している社会調査のための準備作業をおこなった.すでに得ているデータの分析作業を継続し,さらなる調査研究に必要な調査項目を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,人びとの社会関係的資源の保有とその利用可能性とを区別し,資源の社会的分配と利用可能性それぞれの規定要因を探ったうえで,メカニズムを理論化することを目的としている.現代社会は自由主義的制度を規範的枠組みとして成り立っており,そのメンバーを「責任ある自由な行為者」として想定する.しかし,さまざまな社会経済的資源の分配における貧困や格差は,人びとの自由の程度に違いをもたらし,自らの責任において生活を営むことが困難な人びとも生じうる.その「責任ある自由な行為者」としての社会的活動に必要な資源の一つとして,社会関係的資源を考えることができる.逆に社会関係的資源を欠く人びとは,とくに個人的資源も少ない場合,もはや自らの自由な選択によって活動するのが困難な「社会的排除」の状態にあるとされうる. この本研究では,(1)社会関係的資源を含む資源の分配をいかに捉えるか,(2)その分配における人びとの責任と分配の公正さをどう捉えるか,(3)資源の不平等が人びと自身の選択というより,差別などの社会構造的な仕組みによって生み出されるメカニズムはいかなるものか,が重要な探求課題に含まれる. 平成26年度は上記(1)~(2)について,資源の不平等分配の社会学的研究(社会階層研究)における自由な選択に伴う責任の概念と「機会の平等」概念との関係を理論的に明らかにし,その測定に関する注意点を論文として刊行した.(3)に関連して,家族形成といった社会構造的な仕組みと企業による差別的採用が,離職率の男女差をあたかも人びとの自発的な選択であるかのように実現するメカニズムを明らかにし論文として投稿した.さらに,標本抽出に関する実践的ノウハウを共著論文として刊行し,今後の研究で計画している社会調査のために活かせるようになった. 以上より,本研究課題はこれまでのところおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究は順調に推移しており,平成27年度以降も計画にしたがって研究を推進する.ただし研究代表者は現在育児休業を取得中であり,それにともない研究期間の1年延長が必要となるため,それを前提とした計画をたてている.そのため,調査の実施時期も含め,延長された期間にそってベストな研究成果を出せるようにする. 平成27年度は,前年度に続き理論面での研究を進めるほか,既存データの分析と既存調査の情報収集をとくに強化する.それによって,平成28年度の新たな調査に必要な調査項目の精査を進め,さらに理論的な仮説構築に基づく新たな調査項目の設計も視野に入れる.とくに後者については,新たな理論的検討という時間を要する作業だが,成功すれば研究分野全体にとっても大きな成果となるため,育児休業による研究期間の延長をプラスの要素に変えることができる. 平成28年度に,前年度までの準備に基づき,あらたな社会調査を実施する.調査実施地域や標本サイズなどについては,研究代表者の前回調査に準ずる計画とするが,以下の点に留意する.(1)前回調査では柔軟な運用が難しい補助金であったため,年度の変わり目という被調査者の移動の多い時期に実施せざるを得なかった.今回は6月~9月の比較的安定した時期におこなうことにする.(2)標本サイズは前回同様3000を計画する.ただし,研究代表者の所属大学と協力関係にある機関のある地域との比較研究の可能性も検討する.(3)調査票の設計にあたっては前回調査との継続性に留意しつつ,とくに「社会規範」および「協力行動」に関する調査項目について理論的検討を踏まえた新たな項目の導入を目指す.(4)ネットワーク関連項目については,前回調査を踏まえさらに改良する. 平成27年度はこうした調査の準備作業を進めながら,さらに理論的研究成果および既存データの分析による成果について随時発表する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題では,自治体住民に対する社会調査の実施を計画している.そのベストな方法として社会調査会社に委託するか,すべて自前でおこなうかなども含めてつねに検討中であるが,いずれにせよ,研究費のうちできるだけ多くを当該調査の実施にあてる必要がある.また,社会調査は失敗が許されない上に,標本抽出時期に選挙が実施されるなどの突発的事態もありうるため,その計画にはある程度の柔軟性を持たせておく必要がある. そこで,とくに理論的研究および先行研究の検討,既存データの分析等に携わる平成26年度は,データ分析用ソフトウェアの新規導入も後回しとするなど,本研究課題の研究費からの支出は必要最小限にとどめ,可能な限り次年度以降に温存するよう努めた.次年度使用額が生じたのはそのためであり,平成26年度分は平成27年度以降に問題なく使用する計画となっている.
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次年度使用額の使用計画 |
本研究では,とくに平成28年度に計画している社会調査をより良いものとするため,可能な限り多くの資源を投入する必要がある.現在のところ見込んでいる使用計画を述べる.まず調査には直接関係しない費用として,平成27~28年度にかけて,研究資料(書籍,雑誌等)の購入費用17.5万円,消耗品(PCソフト,トナーなど)14.5万円,学会報告旅費18万円を見込む. 次に,調査に直接関連する費用として使用する研究費の見込みとしては,平成27~28年度の調査実施までに少なくとも,研究補助(標本抽出やデータ入力)および謝金の費用として65.5万円,調査票・同封文書・封筒等の印刷費用37万円,郵送調査の通信費用として95万円程度を必要とする(前回調査の費用をもとに概算したものである).以上の金額には平成26年度分の次年度使用額も含まれており,研究期間も考慮して柔軟に改善しながら計画にしたがって支出をおこなう.
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