研究課題/領域番号 |
26780278
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
朝田 佳尚 京都府立大学, 公共政策学部, 准教授 (60642113)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 社会問題 / 監視社会論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は2つある。ひとつは近年の監視社会化の代表例として、居住地における監視カメラの広がりを事例に基づいて分析することである。それを通して、監視カメラ設置の過程をモデル化するとともに、そうした過程に影響を与える要因の析出から現代の日本社会のあり方を読み解くことである。もうひとつは、社会問題の定義的アプローチを監視カメラの設置過程を手掛かりに再検討することである。社会問題の定義的アプローチはこれまで主に言説を中心に議論が進められてきたが、本研究では行為や社会的背景も含めた分析の方途を構想する。こうした目的を遂行するために、本年度は、フィールド調査、公式統計の分析、理論研究を実施した。 まず、フィールド調査に関しては、当初の計画で実施を予定していた農村の事例を三重県の東紀州地域を対象に検討した。すでにこれまでの事例の分析から、監視カメラの設置にある程度の共通する過程があることは確認できているが、農村の事例においても、やはり同様の社会的な変化と外部者に対する不安という語りが認められた。これにより、設置過程の検証をさらに充実させることができた。 公式統計の分析に関しては、戦後の日本社会における犯罪などの統計的な変化や個別の事件の概要を整理するとともに、それらを昨年度の犯罪表象に関する資料分析の結果と組み合わせることで、そのずれの拡大を確認した。 昨年度から継続している理論研究については今年度も検討を行った。昨年度は社会問題論とエスノメソドロジーの古典などを主に検討したが、今年度は言説分析やリスク社会論にも検討の幅を広げ、定義的アプローチと比較しつつ、分析手法間の差異や特徴を把握した。こうした理論研究の成果については昨年度から継続的に学会での発表を実施しており、来年度はさらに別の研究者とも連携し、部会をもうけて内容の検討を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画のうち本年度において展開したのは、フィールド調査、公式統計分析、文献研究である。これらにより、監視カメラの設置過程のモデル化の再検討、犯罪統計と言説のずれ、さらにはこうした分析に際してどのような方法論を用いることができるかを理論的な観点から検討することができた。その成果に関しては、研究会を通じて確認するとともに、学会において公表し、専門領域の研究者と意見を交わすことができた。それにより、現代社会論と方法論の構築の方途をさらに明確にすることができた。さらに、後半期にはこれらの成果を整理する作業に着手した。以上の作業の内容は、当初に計画していた当該年度分の作業に十分値するものだったとみなすことができる。 ただし、今年度の計画のうち、従来の理論枠組みに対する批判的な検討と海外学会における活動という点ではやや進展に遅れが認められる。これまでの理論的な枠組みに関する文献調査については進展しているが、モデル化した事例との接合に関してはまだまだ検討する余地が残っている。しかし、こうした検討については当初の計画でも次年度の課題となっており、またその内容については一定の検討が進んでいることから、来年度の公表は可能だと考えられる。また、監視カメラのモデル化に関連して考察を進めた地域社会の変容という論点については、その一部を公表できたことから、全体を通しては計画の遂行は順調なペースにあると考えられる。最後に、海外学会については、当初予定していた学会よりも、来年度に開催予定である学会により計画の遂行に必要な内容が含まれていたため、そちらに注力することに決めた。そのために海外学会についてはむしろ次年度において充実した活動が可能になると考えられる。 以上のように、いくつか課題となった点もあるが、全体的な研究の推進という点においては今年度もおおよそ順調だったと考えらえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はおおよそ計画を開始する際に予定していた作業を遂行し、フィールド調査、公式統計の分析と言説の関係性、理論的な考察を展開した。これらの成果はそれぞれに有意義な内容を含んでおり、今後の学会発表や論文の執筆を進める基盤とみなすことができる。本年度においてもこの成果の一部を公表してきたが、来年度についてはさらにその公表を進めるべく、分析や資料の整理を展開していく予定である。 具体的には、来年度の前期にこれまでの成果を再検討することを計画している。まずは平成26年度の資料分析を補強し、その内容を公表することを目指す。同時に、理論的な枠組みについても検討を進め、こちらについてもその成果を整理しておく。さらに、後半期については、監視社会化に関連する現代社会論を整理し、これまでの研究と本計画が想定する社会像との差異を明確にする作業にも取り掛かる。 次年度は以上の計画を進めていく予定である。また、海外学会に参加し、そこでの議論を踏まえて、これまでの研究の成果を補強することも想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
上記してきたように、次年度使用額が生じたのは、本年度における海外学会よりも次年度に開催予定の海外学会の方が本計画の検討には有意義だと考えたためである。具体的には、ひとつの領域に関する学会に参加して方法論についての知見を深めるよりも、国際社会学会の世界社会学フォーラムに参加し、リスク、疎外、福祉、犯罪などの隣接する複数の領域において、どのような方法論が採用されているかを検討する予定である。これにより、本計画の内容を多面的に検討することができるとともに、各領域でいかなる分析手法が主流となりつつあるのかを把握することもできる。同時にそれは本研究の意義について確認することにもなると予想される。このように、本計画にとってより実りのある活動を実施するために、本年度の使用額を次年度に転換することに決めた。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度の未使用分については旅費が大半を占める。この分は国際社会学会の世界社会学フォーラムの参加にあてる。7月の中旬にオーストリアで開催される国際学会であり、世界社会学会と交代しながら2年ごとに開催されている。今回はリサーチ・コミッティのうち、貧困と福祉、逸脱、臨床、疎外などの部会を、またテーマ・グループのうち、リスクと不確実性と制度的エスノグラフィーなどの部会に参加する予定である。これらの複数の領域で実施されている方法論を検討することで、本計画の内容を多面的に検討することができる。
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