今年度は旧産炭地に立地するA市における進路保障の取り組みを調査するとともに、当地の生徒の進路実績に関する過去40年分の資料の整理・分析を行った。当地域の生徒、とりわけ旧同和地区出身生徒における進路の不安定、進路先における労働環境の劣悪、退職後の過程を経ての音信不通、当地域への帰還などの事例を読み取ることができた。未読の資料の整理・分析とともに、インフォーマントへの事実確認を経て論文化する見込みである。 本研究課題は旧産炭地における貧困・生活不安定層の地域的形成について、人の移動をふまえ捉えることにあった。筑豊地域出身の若者へのインタビュー調査を主に進める予定であったが、調査上諸々の課題に直面し当初の計画よりも進捗が進まなかったこと、得られたデータから経験的な知見を導くのに不十分であったこと等により、研究課題に別のアプローチを採ることとなった。具体的には1)当該地域、とりわけ生活困窮問題を抱える地域に関する状況把握、2)卒業生徒への進路保障の取り組みと卒業生進路の状況把握(上記)である。1)については福岡県内の隣保館所在地を基準に、県より提供を受けた行政データ及び国勢調査データによる状況把握(2015年及び2010年・2015年の比較)を、小学校区・市町村との比較に基づいて行い、生活困窮問題の深刻化が考えられる地域の析出及び傾向が確認できた。また併行して県内8カ所の隣保館に聞き取り調査を行い、当該地域住民の状況(とりわけ地域への偏見の若年層への影響など)及び特色ある取り組みが確認された。研究成果は調査協力者への事実確認を経た上で論文として公表する。
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