研究課題/領域番号 |
26780293
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
田靡 裕祐 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 研究員 (80619065)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 職業・労働 / 仕事の価値・価値志向 / 組織コミットメント / 国際比較 |
研究実績の概要 |
今年度は,労働者意識の概念整理と操作化の方向性の検討,それに基づいた調査票の設計とウェブ調査の実施,データの予備的な分析を行った。労働者意識の概念化および操作化については,国内外の職業・労働社会学や社会心理学・価値研究の領域における研究蓄積を中心として体系的なレビューを行い,内的・外的価値への志向や組織への帰属意識・コミットメント,仕事への満足感といった意識にかんする概念・尺度を整理した。また,R・イングルハートらによる価値変動の理論や脱近代化論をベースとした国際比較研究を精査し,労働者の価値志向の構造や変化を説明するための理論的枠組みについて検討した。さらに,研究の射程をより広いものにするために,労働・働くことの意味についての思想研究や歴史研究といった周辺領域の文献についても整理した。 以上の概念整理をふまえて,労働者の意識を探るための質問紙調査(調査会社の保有するモニター・サンプルを対象としたウェブ調査)を設計・実施した。質問紙の設計の際には,World Value SurveyやEuropean Values Studyといった欧米での調査データとの比較が最大限可能となるように考慮した。また,研究協力者である米田幸弘(和光大学)とも意見交換をし,社会階層論・階層意識論の視点からの分析が可能となるように設計した。調査から得られたデータを用いて,労働者の意識(価値志向や満足感・コミットメント)の構造を探索的に分析した。予備的な分析結果を見る限り,既存の国際研究で報告されている知見と整合的であり,データの信頼性や妥当性は高いと考えられる。以上の研究成果を基にして,平成27年度の学会大会での報告に向けて準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究の体系的な整理・検討による労働者の意識の概念整理・尺度化については,順調に進展した。今年度は,国際比較研究の可能性を最大限に確保するという観点から,仕事の価値(work value)や,組織コミットメントといった概念を中心に整理を進めた。また,ランダムサンプリングによる調査ではなくモニター・サンプルを利用したウェブ調査ではあるものの,比較的に大きなサンプルサイズ(N=2,600)のデータを得ることができた。得られたデータの基礎的・探索的な分析も,順調に進められている。 他方で今年度の調査は,次年度に予定されている調査の予備調査という意味合いも兼ねていることから,調査票に盛り込む質問の内容や対象サンプルについての慎重な検討を重ねた結果,実査の時期がやや遅れた。その分,成果の発表についてもやや遅れが生じる見込みであるが,次年度中(平成27年度)の学会報告と論文投稿は可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,今年度の基礎的・探索的なデータ分析をふまえた上での尺度の確定と,それによって測定される労働者意識の差異を説明するための因果モデルの検討,およびその国際比較分析を行う。 より具体的には,第1に,今年度検討した理論的枠組みにもとづき,労働者の意識の規定構造や差異化の要因を明らかにするための仮説を構成する。これまで階層意識研究が注目してきた職業的地位に加えて,価値変動の理論が注目する世代的・時代的要因や,産業社会学・労働社会学が検討を加えてきた職業的実践や職業キャリアといった概念などを,規定要因の候補とする。第2に,そのような仮説を操作化し,初年度と同様にウェブ調査を実施する。第3に,得られたデータをもとにして,回帰モデル系の計量的手法を適用しながら,労働者の意識の規定構造を分析する。第4に,WVS やISSPといった国際的な社会調査データを比較対象として,構造方程式モデル,多母集団同時分析やマルチレベル・モデルなどの計量的手法を用いて,労働者の意識の差異化要因についての国際比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウェブ調査の調査票設計および対象サンプルの検討を慎重に行った結果,実査の実施が年度末となったため,ウェブ調査の委託費用の支払いが次年度(4月)に繰り越された。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度末に実施されたウェブ調査の委託費用として,平成27年4月に支出済みである。このウェブ調査の分析結果をふまえたうえで,平成27年度に計画されている本調査の調査票を設計し,分析モデルの精緻化を図る。
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