本研究の目的は,日本社会における「仕事の価値」の構造と,その規定要因について,社会調査データの計量分析を用いて検討することであった。仕事の価値とは,人々にとって望ましいと認知される仕事の特性や条件である。最終年度である今年度は,インターネット調査に基づく探索的な分析を行い,以下の3点を明らかにした。 第1に,仕事の価値は,内的価値,外的価値,ワークライフバランス価値という3つの基軸によって構成されている。内的価値は,仕事に取り組むにあたっての自律性や責任,やりがいといった特性によって構成される。外的価値は,高い報酬や雇用保障などを含んでいる。ワークライフバランス価値には,仕事が長時間でないことや仕事量が多すぎないことなどが含まれている。 第2に,それぞれの仕事の価値は,個人属性や社会階層的地位によって規定されている。内的価値への志向性は,男性,高学歴層,専門職・管理職といった属性・地位によって高められる。一方で外的価値への志向性は,若年層,正規雇用といった要因によって形成される。概括すれば,内的価値とは,労働市場や職場における優位性を背景として追い求められる価値である。他方,外的価値への志向性は,必要性がその契機となっている。 第3に,職務満足感の形成において,仕事の価値と報酬とのギャップが重要な要因となっている。すなわち,職務満足感に対する属性や職業的地位の効果の一部は,価値(仕事に対して何を求めているのか)と報酬(求めているものが得られているのか)の差の効果に媒介されている。例えば,外的価値を志向する若年層や正規雇用では,実際に得られている報酬の水準が(主観的に)低いため,職務満足感が低下すると考えられる。 以上の研究成果は,平成27年度の日本社会学会大会(早稲田大学)にて報告されている。
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