研究課題/領域番号 |
26780296
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
立石 裕二 関西学院大学, 社会学部, 教授 (00546765)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 不確実性 / 負の自己言及 / 批判的科学 / 科学社会学 / 環境社会学 / 科学論争 / ネットワーク分析 |
研究実績の概要 |
原子力発電や放射線リスクをめぐる問題において、批判と科学の両立が可能な議論の場をつくるには何が必要なのか。この問いに答えるべく、2017年度は大きく3つのアプローチから研究を進めた。 1)放射線リスク研究にかかわる科学者集団の分析。しばしば「原子力ムラ」と批判されてきたこの集団を取り上げ、その実際の姿、とくに集団内部での意見の多様性のあり方について分析した。ネットワーク分析の手法を用いて、研究者集団としての特徴を明らかにした上で、そうした特徴が意見の多様性に与える影響について検討した。その結果、「公式見解」に対する批判を出にくくした要因として、近隣分野の研究者に見られた「原子力とは無関係」「距離を置きたい」意識、電力業界による「原子力とは無関係」な研究者とのネットワーク構築、放射線防護をめぐる参入障壁などが関わっている可能性が示唆された。中間的な研究成果をまとめて学会発表を行った。 2)低線量被曝リスクをめぐる論争の分析。2015年度に掲載された雑誌論文を全面的に改訂して、英文書籍の1章として出版した。また、放射線リスクをめぐる論争に関する先行研究をレビューし、「わかっている」部分が大きいと考える側と、「わかっていない」部分が大きいと考える側との隔絶という観点から整理し、レビュー論文を執筆した。現在は、2018年度中に出版できるよう、原稿の修正に取り組んでいる状況である。 3)原子力発電所の事故リスクをめぐる論争の分析。原子炉の老朽化/高経年化リスク論争についての資料収集と分析を続けた結果、技術論争を分析する際の重要な論点として、多様なアクターと繋がっており実質的な改善に結びつきうる研究と、現状を正当化するだけの研究との違い、技術的な課題と社会的な制約の間の相互変換性という二点を見いだすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低線量被曝をめぐる専門家の議論の分析に関しては、当初の計画どおり進展し、英文書籍の1章として公刊することができた。また、先行研究レビューに関しても原稿を書き上げることができ、現在は出版に向けて取り組んでいる段階である。 また、放射線リスクにかかわる研究者集団の分析に関しても、着実に進展させることができた。昨年度に引き続きネットワーク分析の手法を用いて検討を進め、研究成果を学会発表した。批判を出にくくした構造的要因に関して明確な結論が得られつつあり、現在は学会発表の際のコメント等を参考に修正した上で、論文として投稿する準備を進めている段階である。 事故リスクをめぐる論争の分析に関しては、学会発表まで進めることはできなかったものの、継続的な検討の結果として問題意識を明確化することができた。それに沿って実証研究の方向性を若干修正し、原子炉の老朽化に加えて、高速増殖炉もんじゅの事例に関する資料収集と分析を始めた。現在は集めた資料をもとに、学会発表にむけて準備を進めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、放射線リスクにかかわる研究者集団の分析について、計量的な分析結果を文献資料(関連分野の論文・雑誌記事等)と関連づける作業を進め、論文として完成させることに最も重点をおく。すでに固まりつつある結論の方向性、すなわち、原子力工学から放射線の疫学・生物学を経て疫学へと至るネットワークの連なりの中でのバウンダリー・ワーク(原子力とその外との線引き)に絞り込んで図表の作成や文献収集を進めることで、分析・執筆のスピードを上げる予定である。 また、事故リスクをめぐる論争の分析に関しても、高速増殖炉もんじゅをめぐる論争に対象を絞り込んだ上で、資料収集と分析を進める。技術的に大きな課題を抱えながら、長年にわたって事業の継続が正当化されつづけた事例であり、しかも、その「失敗」には技術的な困難、組織マネジメントの問題、経済・社会的背景などが複雑にからんでいる点で、本研究課題にとってふさわしい対象だと考える。年度後半には、学会発表を行うことを念頭に分析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
原子炉老朽化の問題にかかわる専門家へのインタビューや資料収集を当初予定していたが、このサブテーマに関する研究の方向性を若干変更したことに伴い、実施を見送ったことが主な理由である。また、2017年度に英文書籍の1章として公刊した論文に関して、英文校正等にかかった費用が当初の想定より少なくて済んだことも一因である。 2018年度の使用計画としては、放射線リスクにかかわる研究者集団の分析を進める上で必要な文献資料(関連分野の論文・雑誌記事等)を入手することや、関連する研究者へのインタビューの際の旅費として使う予定である。また、高速増殖炉もんじゅをめぐる論争に関する資料収集の費用や、もんじゅに関する研究や論争に関わった専門家へのインタビューの際の旅費としても使用する予定である。
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