2018年度は大きく2つのテーマで研究を進めた。 1)原子力・放射線にかかわる学者集団のネットワーク分析。いわゆる「原子力ムラ」は、福島第一原発事故のあと、繰り返し批判の対象となってきたが、それが実際のところどういう存在なのかは、これまで学問的・体系的には検討されてこなかった。本研究では、系統的に収集した量的データ(科研費データベースから得られた共同研究関係のネットワーク)を用いて、原子力や放射線リスクにかかわる(およびその近傍の)学者集団の構造と、そうした構造が学者たちの言動に与える影響について分析した。2018年12月の環境社会学会大会において報告をおこなった。報告後の質疑応答を踏まえて、現在は、ネットワーク構造が与えた効果はひとまず論点から外して、ネットワーク分析の結果(学者たちのつながり方、分布)の解釈、とくにいわゆる「原子力ムラ」に対する自己/他者認識との重なりとズレに焦点を合わせて改稿している。2019年度中に学会誌へと投稿できるよう準備中である。 2)マクロ(非)合理性と科学技術批判に関する理論的検討。科学技術に対する批判のあり方について、科学史家・吉岡斉の論考を手がかりにして検討した。とくに、科学技術システムの内在的視点から見た合理性(ミクロ合理性)と、その科学技術が長期的に社会全体にどのような(悪)影響を及ぼすのかという「マクロ合理性」を対比させるロジックについて、その意義と限界を検討した。結論として、マクロ合理性の概念をそのままの形で発展させることは難しいが、個々の事例の文脈を踏まえつつ、個々の当事者にとっての失敗を超えた、マクロな「失敗」「非合理」に至るメカニズムを探究することは、科学社会学にとって中心的な課題だと論じた。2018年7月の科学社会学会大会で報告し、加筆修正を加えた上で、2019年6月刊行の『年報 科学・技術・社会』誌に掲載される予定である。
|