研究課題/領域番号 |
26780297
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研究機関 | 東京福祉大学短期大学部 |
研究代表者 |
松木 洋人 東京福祉大学短期大学部, こども学科, 講師 (70434339)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 子育て支援 |
研究実績の概要 |
本研究は、「親であること」の多元化という観点から子育て支援の現状を分析するとともに、今後の子育て支援の方向性に対して提言を行うことを目指すものである。 現在の日本社会では、親役割の担い手を複数化するという理念を背景にして、各種の子育て支援の実践が展開されている。しかし他方では、家族の育児責任を強調する言説もその効力を維持しているため、「育児の社会化」はなかなか進まない現状がある。このような現状を打破するために、家族が子育てをすること、「親であること」自体を多元的に捉え直す必要があると思われるが、本研究では、フィールドワークを通じて、この「親であること」の多元化がどのようにすれば可能になるかを明らかにすることを試みている。 2014年度には、まず、2014年10月から2015年1月にかけて、都内の保育園でフィールドワークを実施した。具体的には、保育園のいわゆる「お迎え」の時間における保育者と保護者によるコミュニケーションの様子をビデオ録画することによって、映像データの収集を行った。データ収集後は、当該保育園の職員を対象とした研修会に向けて、予備的な分析に着手している。 また、「育児の社会化」や「親であること」の多元性について考察するにあたっては、「血縁」がキーワードになると思われる。2014年8月には、この血縁を主題とする学会のテーマセッションに討論者として登壇した(日本家族社会学会第24回大会テーマセッション「親子関係と子育てをめぐる新たな秩序と実践 :「血縁」に着目して」)。その後、当日のコメントを加筆修正して、他登壇者と一緒に共著本として出版すべく、原稿執筆に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、どのような場合に「親であること」が子育て支援者や支援の利用者にとってより多元的なものとして経験されるかという問題に、子育てが社会化される様々な状況の経験的な記述によって答えが与えようとすることにその特色がある。とりわけ、社会構築主義およびエスノメソドロジーの視点を採用したうえで、参与観察、支援提供者と利用者へのインタビュー調査、支援提供の現場の録音・録画を行い、自然に発生する相互行為を記録したデータを分析することを試みるものである。したがって、研究の進捗状況を大きく左右するのは、どれくらいフィールドワークが進んだか、どのようなデータを入手することができたかということである。 この観点からすると、2014年度には、これらのうち最も調査の実現へのハードルが高いと想定していた相互行為の録画データを収集することができたことは、非常に大きな前進であると評価している。ただし、その一方で、保育園での調査の実施を優先したために、調査対象が当初に想定していた「保育ママ」とその利用者のコミュニケーションではなく、保育園と保護者とのコミュニケーションになったことは、当初の研究計画からの変更点であり、研究計画の予定通りの遂行を遅らせる結果になっている。また、インタビュー調査が実施できなかったことについても同様のことが指摘できる 以上の理由から、達成度については、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は2年間で遂行されるものであるため、2015年度が最終年度となる。 このため、2015年度はフィールドワークをできるだけ速やかに推進するとともに、2014年度に得られたデータの分析、あるいは、2015年度に新たに得られるであろうデータの分析を集中的に実施することが必要になる。 まず、フィールドワークの推進については、2015年度から勤務先の移動に伴って、拠点が関東圏から関西圏に変わったため、関東圏でのフィールドワークの実施はやや難しくなったと考えている。このため、関西圏でのフィールドを開拓することが急務になる。この点については、地域社会との連携が強く求められるという公立大学の立場も活用しつつ、関西圏でのフィールドの選定を急ぎたい。この際、場合によっては、当初、予定していた「保育ママ」だけではなく、2014年度と同様に、保育園を対象にすることも検討しなければならないと考えている。 なお、2015年度には、「血縁」をテーマとした共著本が出版される予定であるため、これを本研究の成果を報告する1つの重要な機会であると捉えている。さらに、申請者が参加している「子育て期女性のエンパワメント研究会」(公益財団法人生協総合研究所主宰)が共同で実施してきた「子育て支援者の活動形態や働き方に関する調査」の成果が、現在、とりまとめられている段階にある。この調査は、社会の中の多様な担い手が子育てをどのように共有していくかという課題に女性労働という観点から取り組むものであるので、こちらの報告書にも、本研究の成果を反映させたいと考えている。その他にも、学会報告および論文の執筆などを通じて、本研究の成果の周知に努める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度にはインタビュー調査を実施できなかったため、謝金の支出が発生しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度にはインタビュー調査を実施する可能性があるため、繰り越し分はその支出に充当することを予定している。仮にインタビュー調査が実施されない場合には、より質の高い録画データを取集するために、録画録音機材の購入に支出したい。
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