本研究は、いわゆる「慰安婦」問題において、なぜ日本人で「慰安婦」とされた女性の存在が〈被害者〉総体からこぼれ落ち、不可視化されたか分析した博士論文を発展させるものである。博士論文では、1970年代以降のフェミニズム運動と1990年代初期の「慰安婦」問題解決運動等の資料の言説分析をおこない、言説空間のなかで日本人「慰安婦」が不可視化されていく言説作用を捉えた。 本研究では資料調査を継続し、最終年度である2016年度内に研究成果として単著を出版することを最終的な目標とした。当初は資料の存在を知らず想定していなかったことであるが、2015年末から2016年にかけて、日本人「慰安婦」被害者であった当事者の手記等、本研究にとって重要な資料を閲覧する機会に恵まれた。そこで得られたデータは単著の構成上大きく比重を占めるものとなり、構成内容を再検討しつつデータを読み込み、原稿執筆を進めた。2016年度はこの単著のための研究成果公開促進費も受給でき、予定通り年度内に本研究の成果としての単著『「慰安婦」問題の言説空間――日本人「慰安婦」の不可視化と現前』(勉誠出版)を刊行することができた。 単著執筆の過程で、加害国の被害者に焦点を当てることで、ポストコロニアリズム研究へと発展させる必要性と、「慰安婦」問題全体の構造を捉え直すことの重要性を再確認したが、理論的な考察はまだ途上である。「慰安婦」問題を扱った研究群のなかで、日本人「慰安婦」を主な考察対象としながらポストコロニアリズム研究を構想したもので、本格的な研究はまだ見当たらない。今後取り組むべきこれらの課題も見えてきたのは、本研究の成果の一部でもある。単著の書評会なども今後開催されるので、批判も受けつつ、研究を進めていきたい。
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