本研究課題の目的は、介護サービスおよび要介護状態に地域差があることを示し、その要因と両者の関係を実証的に明らかにすることである。本研究課題では特に、介護保険の保険者である市町村を単位として地域差を捉え、市町村の政策決定が介護サービスおよび要介護状態の地域差に与える影響を分析する。当該年度においては、自然災害が介護サービスおよび要介護状態の地域差にもたらす短期的および長期的影響を明らかにするため、東日本大震災を事例に市町村単位で集計された震災前後のデータを用いてDD推定量による分析を行った。 分析の結果、以下の3つのことが明らかになった。第1に震災後、要介護認定率が上昇していること、第2に震災1年後よりも震災4年後の方が要介護認定率の上昇が大きいこと、第3に年齢階級別にみると、65~74歳の要介護認定率よりも75歳以上の要介護認定率で大きく上昇していることである。このことから、震災に関連する要因によって要介護認定率が上昇し、その影響が時間の経過とともに大きくなっていること、またその影響が身体的および社会経済的に脆弱な層で顕著であることがわかる。ただし、本分析では震災に関連するどのような要因が要介護認定率の上昇に寄与しているのかが明確ではない。この点についてはこれまでの研究から、震災後の生活環境の変化によって引き起こされた日常生活動作の低下が要介護状態につながり、その状況が引き続いていることが要介護認定率の継続的な上昇をもたらす要因の一つになっていると考えられる。
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