研究課題/領域番号 |
26780329
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
鈴木 良 琉球大学, 法文学部, 准教授 (90615056)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 知的障害者 / 脱施設化 / 入所施設 / 地域移行 / カナダ / 日本 / 当事者の会 / 親の会 |
研究実績の概要 |
今年度の研究実績の概要は下記の通りである。 第一に、2016年9月11日~2016年9月24日にわたって、カナダ・ブリティッシュコロンビア州、マニトバ州及びオンタリオ州において、脱施設化運動を牽引した知的障害者の当事者団体であるピープルファーストの関係者にインタビューを行った。具体的には、知的障害当事者、彼らを支援してきた支援者や家族にインタビューを行った。また、各州において、当事者団体による活動に関わる資料を収集した。この調査によって、オンタリオ州においては、ピープルファーストと州の親の会との間で当事者団体の自律性をめぐり意見の対立があったが、現在において、脱施設化の取り組みにおいてある一定の協力関係があることが明らかになった。また、親の会の全国組織であるCACLとピープルファーストカナダとの協働による脱施設化特別委員会が州政府と交渉するなどの具体的活動を通して、現在の脱施設化運動を牽引していることが分かった。 第二に、2016年8月3日~8月11日にわたって、北海道において知的障害者入所施設を閉鎖した社会福祉法人札幌この実会と社会福祉法人美深福祉会にて、施設閉鎖の取り組みに関わった職員・家族・知的障害者本人へのインタビュー調査を行った。また、当施設の閉鎖に関わる報告書やニュースレターなどの収集を行った。その結果、札幌この実会においては、小規模のホームづくりという理念が設立当初からあり、その理念の実現に向けてのこれまでの地域移行の取り組みの延長線上に施設閉鎖の取り組みがあることが分かった。一方、美深福祉会においては、当時の施設における入居者と職員間の上下関係の解消に向けての取り組みのために、短期間において施設閉鎖の取り組みを実施してきたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的を明らかにするうえで、カナダにおける調査においては、主に知的障害当事者団体の関係者から情報を収集することに焦点をあてていた。当事者団体であるピープルファーストの関係者にはインタビュー調査を実施することができ、必要な情報をほぼ収集することができた。ただし、歴史的な資料については、全国組織であるピープルファースト・カナダの事務局にニュースレターと総会決議の資料があることを確認することができたが、当局の情報整理が十分にできていない状況もあり、必要な情報を入手することができないでいる。この点については、メール上で当局の関係者と連絡をとりあっており、近いうちに必要な資料を提供して頂く予定となっている。 一方、日本における施設閉鎖を実施した社会福祉法人の取り組みに関わる歴史的な資料については必要な情報をほぼ得ることができた。インタビュー調査についても、調査対象とした関係者にはインタビュー調査を実施することができている。 研究成果については既にいくつかの学会誌や学会、さらにシンポジウムなどで発表している。また、カナダと日本の施設閉鎖の取り組みについて、全体的に整理し、書籍という形でまとめていく予定である。この最終的な総括については、未だ十分に整理できていない状況なので、今後の課題としたいと考えている。 これらの理由から、(2)の区分とさせていただいた。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、3年間の研究を通して明らかにしてきたカナダ及び日本の知的障害者入所施設の閉鎖運動の歴史的過程、地域生活への移行支援の方法、地域生活支援の方法についての成果を整理し、さらに未整理の情報についての整理・分析を進め、最終的なまとめを行いたいと考えている。具体的には、カナダの研究においては、1)知的障害者入所施設閉鎖運動を推進してきた親の会と知的障害者本人の会がどのように州政府に対して施設閉鎖運動を展開してきたのか、2)知的障害者入所施設から地域生活への移行支援の方法として創出されてきた個別化給付という方法がどのように実施されてきたのか、3)この個別化給付が制度化された後にどのように脱施設化過程に貢献しているのか、これらの論点から総括したいと考えている。日本については、1)設立当初から小さなホームづくりを目指した法人がどのような取り組みをし施設閉鎖に至ったのか、2)障害者自立支援法を契機として施設閉鎖を実施した法人がどのように取り組みを行ってきたのか、3)入居者と職員間の上下関係の解消を掲げた施設閉鎖を実施した法人がどのような取り組みを行ってきたのか、という論点から総括を行いたいと考えている。これらのカナダ及び日本の研究成果については、最終的に書籍という形で公表したいと考えている。。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたカナダ訪問時での文献購入費や印刷代として申請していたものが不要になったために、36,567円の未使用額が生じている。具体的には、カナダ・マニトバ州において知的障害者当事者団体のピープルファーストでの訪問の際に、資料購入を検討していたが、当団体が今後、web上に資料を掲載することを計画し、その提供を受ける計画なので、未使用額が生じることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額の36,567円については、北海道における社会福祉法人における補完的調査を実施する際の旅費として使用する計画である。
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