研究課題/領域番号 |
26780333
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研究機関 | 西南女学院大学 |
研究代表者 |
通山 久仁子 西南女学院大学, 保健福祉学部, 助教 (60389492)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 発達障害 / 親当事者 / 主体化 / 地域福祉活動 / NPO |
研究実績の概要 |
平成27年度は、前年度に実施したアンケート調査の回答団体である「発達障害のある人の親」が設立した発達障害者支援団体への2次調査としてインタビュー調査を行い、その生成・展開過程と活動の意義、および親の主体化の過程とその意義を明らかにすることを目的に、各団体の事例を分析することを課題として研究を進めた。方法としては、アンケート調査の17の回答団体(回収率39.5%)より、2次調査の了承を得られた10団体の代表へのインタビュー調査を実施した。これらの各地域をベースに活動を展開している団体への調査に加えて、発達障害に関わる親の全国組織である「特定非営利活動法人 全国LD親の会」へのインタビュー調査を実施した。本調査の対象は、全国LD親の会の現役員、および設立にかかわった元役員とした。 各地域の団体へのインタビュー調査からは、団体の生成・展開過程として、親の会の延長上にあって活動を展開していくセルフヘルプグループ型の団体と、リーダー個人による起業型の団体があることが明らかとなった。またこれらの団体は、親自身の家庭環境やライフステージの影響を受けて活動を展開していた。そして親が行う発達障害者支援団体の活動の特徴としては、障害当事者の発達や成長の可能性を信じ、追求する姿勢が見出された。さらに親が地域福祉活動に従事する意義としては、自身の経験を他者へと還元する経験を通じて、子どもや自身の子育てに対する肯定感を育むことができるということが結果から見出された。 全国LD親の会への調査からは、全国組織としての団体の機能として、制度・政策等に直接働きかけ、マクロレベルの問題を解消していく機能のみならず、団体として蓄積してきたノウハウやスキル、ネットワークを次世代へと継承していく取組みを通して、会員である親個人の主体化をうながす機能があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の課題は「発達障害のある人の親」が行う地域福祉活動の生成・展開過程とその活動の意義を明らかにし、地域福祉活動主体としての「親当事者」への変容過程について明らかにすることである。「親当事者」は本研究の主要概念で、障害当事者を家族員にもつことを通して生じる社会的生活困難を契機に、自らのニーズを顕在化させ、社会を変革する主体となり得る障害のある人の親をいう。2次調査を行った事例については現在分析段階であるが、これまでに下記の点について確認することができている。 「親当事者」が行う地域福祉活動の生成・展開過程については、NPOの事例をもとにモデル構築を進めてきており、団体の類型化について検討している。「親当事者」団体は活動に従事する親自身の家庭環境やライフステージの影響を受けて展開していた。また団体を類型化すると、親の会の延長上にあるセルフヘルプグループ型の団体と、リーダー個人による起業型の団体があった。そして多くの団体で行われている相談支援において、臨床経験を積んだ「親当事者」が、専門家と親の相談者との仲介役を果たすことができること、また次世代の親に対してロールモデルを示すことができることが明らかとなった。さらに全国LD親の会への調査からは、全国組織としてこれまでに蓄積できたノウハウやスキル、ネットワークを次世代へと継承していく取組みを通して、会員である親個人の主体化をうながすことができることが明らかとなった。 「親当事者」への変容過程については、リーダー層の親について、「親当事者」へと主体化されていくプロセスに、社会的役割を獲得するなど親自身が社会に対して開いていく社会化のプロセスがあることが明らかとなった。さらに親が地域福祉活動に従事する意義としては、自身の経験を他者へと還元する経験を通じて、子どもや自身の子育てに対する肯定感を育むことができるという結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度となる平成28年度は、前年度に行ったインタビュー調査の分析を通して、「発達障害のある人の親」が行う地域福祉活動の生成・展開過程とその活動の意義、および地域福祉活動主体としての「親当事者」への変容過程と主体化の意義について分析を進めていく。加えてインタビュー調査を行った団体に対して事例の分析を進めるため、フォロアー層への補充調査を行う。 各「親当事者」団体の事例については、セルフヘルプグループの発展過程の枠組み(小野智明(2007)「セルフヘルプグループの主体形成と支援方法に関する研究」『社会論集13 関東学院大学人文学会社会学部会』)を用いて、「親当事者」団体の生成・展開過程の各段階における特徴を分析し、「親当事者」団体モデルを構築する。そして各団体の成り立ちやリーダーの志向性などから、「親当事者」団体の類型化を図る。さらに団体の持続可能性に関わる要素についても検討する。それと同時に「親当事者」のライフストーリーの分析を行い、リーダー層における「親当事者」への主体化の契機を分析し、「発達障害のある人の親」が「親当事者」へと主体化されていくことの意義について検討を進める。またフォロアー層へのインタビュー調査においては、主体化の契機におけるリーダー層からの影響や「親当事者」団体との関連性について検討する。 「親当事者」の全国組織である全国LD親の会に関する分析については、団体が設立されてきた歴史的背景と発達障害者支援施策展開への影響について文献研究を通して位置づけなおし、発達障害に関わる組織である日本自閉症協会、アスぺ・エルデの会、それらとともに協働して設立した日本発達障害ネットワーク(JDDネット)等との関係性についても分析する。これらを通して、「親当事者」団体の活動が発達障害者支援の施策化や、社会への理解啓発において果たしてきた役割について分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒアリング調査を予定した団体について、当初は全国各地を予定したが、調査の了承を得られた団体が東京近郊、大阪近郊に限定された。それにともなって、調査日程が2泊3日を基本としていたが、1泊2日となり旅費の残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度調査を行った団体への補充調査として、平成28年度はリーダー層に続くフォロアー層へのヒアリング調査を実施する。
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