高齢者施設において「スピーチロック(言葉による抑制)」は、身体拘束の一つとして認識されており、施設によっては廃止に向けた取り組みが実施されている。しかしながらその定義が曖昧なことから、認識や対応は個々の職員や施設の方針に委ねられている。そこで、スピーチロックの認識及び実態について全国の介護老人福祉施設の職員を対象にアンケート調査を実施した。調査結果から、認識状況は高いが、リスクが起きないよう配慮する場面や認知症により中核症状やBPSD(周辺症状)に関する場面、他利用者とのかかわりに配慮した場面、利用者への言葉かけに関する場面等、施設内での日常的な場面でスピーチロックを使用していることが示された。 また、スピーチロック廃止の取り組みをしている介護老人福祉施設2施設を訪問し、取り組みと課題についてインタビュー調査を実施した。施設では、職員の職場環境の整備や施設内での研修、日々の職員教育に力をいれていることが明らかになった。スピーチロックがケアの質を低下させることは職員自身も認識できるが、利用者の介護度の悪化や毎日の職員不足によるリスク回避、ストレス過多など利用者への意識の薄れがみれらることもあり、その都度の対応が求められることが示された。 さらに、施設職員へのスピーチロック廃止に関する研修を介護職員初任者14名に向けて実施した。研修前後のアンケート調査結果より、職員は意識せずにスピーチロックをしていたことに気付き、意識変化につながったことが示された。 平成30年度は、調査及び研究の成果として報告書「スピーチロック廃止の基本~施設での言葉による抑制をしないために~」を作成し、調査の協力が得られた全国の710施設(介護老人福祉施設)に配布した。本研究は、施設でのスピーチロックが不適切ケア及び虐待の芽となる可能性があるという認識を高め、スピーチロック廃止の啓発に寄与する資料となる。
|