平成28年度は実験研究を2件と学会発表1件、論文執筆・修正を3件実施した。実験研究の1件目では、物語への移入が物語内で仄めかされる価値観に対する態度および物語の登場製品に対する評価に及ぼす影響を検討した。本実験はこれまでに行ってきた物語への移入の説得的影響を検討する研究の追試に該当する。移入の操作は文章表現に注目させるか(移入低を想定)、登場人物の感情に注目させるか(移入高を想定)で行った。実験の結果、感情に注目した参加者は表現に注目した参加者と比べて物語に移入していた。態度項目の一部は移入得点と有意傾向で正の相関を示し、移入するほど物語で仄めかされる価値観に同意していた。広告評価では、片方のパターンでのみ感情注目条件の参加者が表現注目条件よりも関連製品をポジティブに評価した。実験研究の二件目では、登場人物に対する同一視を潜在連合テストで測定するGabriel & Young(2000)の追試実験をマンガを用いて行った。その際、孤独をプライムする条件を加え、自己と登場人物の連合が孤独を意識することで強まることを予測した。実験の結果、物語接触後は登場人物のカテゴリ(忍者)と自己の連合が強まったが、孤独感や移入の影響は見られなかった。また、社会的孤立を導出する手続きについて検討した研究を学会発表し、操作について意見交換も行った。 論文執筆・投稿では、物語説得のレビュー論文の査読が返却されたため、原稿を修正し、再投稿した。この論文は心理学評論誌に掲載された。また、平成26年度に実施した昔話接触が高齢者に対する潜在的偏見に及ぼす影響を検討した実験研究が四天王寺大学紀要に掲載された。最後に、再分析を行っていた物語への移入が関連・非関連広告の評価に及ぼす影響について検討した実験研究を論文化し、投稿した。
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