研究課題/領域番号 |
26780343
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
竹村 幸祐 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (20595805)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 個人主義 / 集合知 / 文化 / 協力行動 |
研究実績の概要 |
本研究は、これまでの文化心理学が十分に扱いきれなかった「個人主義の社会的機能」を明らかにする。それにあたり、個人主義的心理傾向と協力行動、特に集団意思決定への貢献行動の関係に焦点を当てて分析を行う。 過去の研究によって、集合知形成のための発案・提案行動を抑制する要因のひとつとして、評価懸念が挙げられていた。ここでの評価懸念とは、自分の発案・提案を周囲の他者から否定的に評価されるのではないかとの懸念を指す。自己の独立を志向する個人主義的傾向の強い個人は、評価懸念に縛られにくく、それ故に発案・提案を実践しやすいと考えられる。 平成26年度には、日本国内で企業の従業員(N = 457)を対象とした郵送調査を実施していた。この調査の結果、影響志向(個人主義に関係するとされる心理傾向)の高い個人は、職場での提案行動を行いやすいことが示された。このことは、個人主義的心理傾向が集団意思決定への貢献行動を促すとする仮説と一貫している。 これを受けて平成28年度には、個人レベルと集団レベルのネスト構造を持つデータを収集し、マルチレベル分析による検討を行った。上述の平成26年度の知見は、個人レベルで個人主義と提案行動が関連することを示すものであったが、これに加えて平成28年度の調査では集団レベルの関連を検討した。すなわち、個人主義的なメンバーが多い集団ではローカルな「個人主義文化」が形成され、集団全体で評価懸念の影響が弱くなり、発案・提案が全体的に底上げされる、との仮説を検証した。データは、大学の部活動等に所属する大学生を対象とした調査で収集された(個人レベルN = 92, 集団レベルN = 31)。結果は仮説を支持し、個人レベルの関連とは独立に、集団レベルで個人主義と発案・提案が正に関連していた。この結果は、個人主義の向社会的側面が、集団内の相互作用で強められて発現することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの調査で、個人主義的傾向と集団意思決定への貢献行動の間に正の関連があることは確認できている。さらに平成28年度の研究を通じて、これが個人単位での現象を超え、集団単位での現象として生じることが新たに確認された。この知見は、本研究のテーマである「個人主義の社会的機能」が、社会的相互作用の中でよりはっきりと表れることを示唆しており、重要な知見だと言える。一方で、現段階では、この集団レベルでの効果は学生データでしか確認できていない。一般社会人データでの検証が不可欠と考え、そのための調査が目下進行中であり、平成29年度もこれを継続する。さらに、社会的相互作用の影響を詳細に検討するためには、個人を結ぶネットワーク構造のデータが必要となる。平成28年度には、京都府北部の農村でネットワーク調査の準備を進めたが、測定機器の整備に時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には、一般社会人を対象とした調査で、個人レベル・集団レベルの双方を含むネスト構造データを収集する。さらに、平成28年度の大学生調査を継続し、部活動・サークルという集団単位での時系列データ化を図る。これに加えて、農村でのネットワーク調査を実施し、ネットワークを介した心理・行動傾向の伝播を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
他の研究プロジェクトと共同で調査を実施することができたために経費を抑えることが可能となった。また、ネットワーク調査の準備に予想以上の時間を要した。
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次年度使用額の使用計画 |
企業等従業員を対象とした調査、大学生を対象とした調査、農村住民を対象としたネットワーク調査を実施する。これに伴い、データ整備を行う研究補助者への謝金が発生する。国内学会・国際学会で成果発表を行うとともに、国際ジャーナルへの論文投稿を行う(英文校閲の費用が発生する)。
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