本研究の目的は、従来の活動理論では明確にしきれなかった社会関係の交絡要因が主観的well-beingへ与える影響を考慮するために、自己複雑性因果モデルを生成し、その妥当性を検討することであった。因果モデルの骨子(仮説)は、「肯定的自己複雑性の高い人(否定的自己複雑性の高い人)は、ネガティブな事象に対して、個別の役割に対する評価が高く(低く)維持されやすいため、主観的well-beingは低下しない(低下する)」であった。 上記目的を達成するため、平成27年度に中高年者572名を対象とする調査を実施し、平成28年度はデータのクリーニング、統計解析、成果の発表を行った。統計解析の結果、中高年者は若年者(他の研究のデータ)と比較して、自己複雑性、肯定的自己複雑性、否定的自己複雑性のいずれも低い値であること、肯定的自己複雑性は就労者アイデンティティとポジティブ感情の関係を調整することが示された。ただし、肯定的自己複雑性の調整効果の内容としては、就労者アイデンティティが低い人(ネガティブな事象の影響がみられる人)に対するものではなく、就労者アイデンティティが高い人には、肯定的自己複雑性が高ければその効果は増幅されるというものであったため、完全に仮説が支持されたとは言い難い結果であった。 上記結果の一部は、日本社会心理学会第58回大会にて報告し、平成29年度の第59回日本老年社会科学会大会においても発表予定である。また、ICP2016(The International Congress of Psychology)において、国内外の専門家と今回の研究結果について意見交換した。
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