研究課題/領域番号 |
26780350
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
大友 章司 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (80455815)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リスク消費行動 / プロンプト / 環境デザイン / 電力消費行動 / 行動変容 / 習慣 / フィールド実験 / コミュニケーション |
研究実績の概要 |
本研究では、リスク消費行動を生じさせる文脈的環境の影響をデザインし直すことで行動変容へ導く、環境介入型のフィールド研究を行うことを目的としている。平成26年度は、電力消費行動の変容のためのデザインド・コミュニケーションのフィールド研究を実施した。具体的には、行動プロンプトと呼ばれる、節電行動を思い出させるデザイン刺激を導入することで、人々の電力消費行動を抑制できるか検討した。まず、日常場面の電力消費行動を測定するアセスメント項目とプロンプト刺激の作成するための予備調査を大学生を対象に行い、アセスメント項目の確定と刺激デザインの課題を検討した。次に、予備調査の結果に基づき、節電プロンプトのデザイン刺激と日常場面の電力消費行動のアセスメント項目を完成させ、一般の人々を対象にしたwebフィールド実験を実施した。フィールド実験では、プロンプト刺激が導入される実験群と統制群が設定され、刺激導入後の電力消費行動が測定された。 その結果、電力消費行動は、浪費抑制行動と減電行動の2つの側面があることが示唆された。浪費抑制行動は主に行動意図に規定され、減電行動は行動意図に加え、行動受容、電力の利用習慣に規定されていた。さらに、習慣はプロンプト刺激による行動変容を調整していた。具体的には、習慣が低いとプロンプト刺激の効果がみられるが、習慣が強くなるとその効果が減弱していた。本研究によって、プロンプト刺激の効果は自動的な電力消費行動を生じさせる習慣の調整効果に左右されることが新たに明らかにされた。 以上の結果は、節電行動の環境介入型アプローチの課題として習慣のレベルに応じて方略を変える必要があることを示唆するものである。とくに、プロンプト刺激の有効性と限界を検討する上で貴重な結果となった。本研究成果の一部は、2015年の環境心理学の国際学会(BCEP)や日本心理学会で発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、デザインド・コミュニケーションによる電力消費行動のフィールド研究を実施した。初年度の研究として、従来の研究では行われていなかった行動アセスメント項目の作成やプロンプトのデザイン刺激の開発を行うことで、研究課題を推進するための重要なノウハウを蓄積することができた。とくに、心理的効果を持つデザイン刺激は今までにないツール開発であり、デザインに至るさまざまなノウハウと含めてオリジナリティの高い研究成果として評価できる。 また、研究結果としては、節電プロンプトしたデザイン刺激の導入によって電力消費行動を抑制する節電効果が一定程度確認されおり、期待通りの成果が得られた。ただし、その効果は電力利用習慣によって調整されるという新たな課題も明らかになった。これまで行動プロンプトの研究は、介入結果のみに焦点があてられ、行動変容の心理プロセスの検討はほとんど行われていない。とくに、どのような心理要因が介入効果を左右するのか明らかにされておらず、本研究のこの盲点に対して、習慣の調整効果という問題点を示唆している。このような研究成果は、プロンプトをはじめとする行動変容の介入研究を検討する上で貴重な知見となりうる。 以上、本年度は従来の研究では行われていないデザインド・コミュニケーションという新たな試みを行い、その研究ノウハウの蓄積に加え、プロンプト刺激による介入おける習慣の調整効果という重要な課題を明らかにした。本研究の関連研究は、2014年度のヨーロッパ健康心理学会、社会心理学会、日本心理学会で発表された。現在、査読論文で審査中でもある。また、研究成果の一部は、環境心理学の国際学会(BCEP)や日本心理学会等で発表予定である。 よって、一定以上の研究成果が得られ、研究発表の取組も十分に行っていることから、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、不健康な食品消費行動の変容のためのデザインド・コミュニケーションのフィールド研究を実施する。本年度のデザイン刺激が行動変容に一定程度有効であったことから、そのノウハウを応用して次年度で使用するプライミング効果を生じさせる刺激をデザインする。また、行動変容の効果について、習慣の調整効果が強いことが本年度の研究により指摘されている。そのため、次年度の不健康な食品消費行動についても、習慣の測定を行うとともに、デザイン刺激の介入効果を詳細に追跡できる測定方法に精度を改める必要がある。とくに、行動アセスメント項目は、不健康な食品消費行動を対象にするため、ダイヤリー形式でより具体的な行動の頻度を測定できるアプローチが重要になってくる。これまでの研究手法に加えて、健康心理学で用いられているダイヤリー方式の測定方法を援用した手法を取り入れる予定である。そのため、予備調査を行い、行動アセスメントやデザイン刺激の効果については時間をかけて精査する。また、食品消費行動に特有な肥満度やダイエット実態といった交絡変数について十分に考慮しなければいけない。このような交絡変数になりうる健康デモグラフィック変数について、先行研究や予備調査を通して再度検討を行う。以上の問題に対応するため、本年度予算の一部の繰越を行った。これは行動アセスメントの質問項目数が多くなることや、詳細な追跡データを得るためには、測定回数が増えるために、フィールド研究の予算が多くなるためである。本年度の旅費などの予算を抑制して、その予算を本年度の研究や次年度の研究に繰り越した。 また、次年度の研究推進の強化に加えて、本研究課題を対外的に発展させるために、本年度の研究成果を国内外の学会で発表する。さらには、Journal of applied social psychologyなどの国際誌に査読論文として投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度のwebフィールド実験の行動アセスメントの精度を上げた方法を用いた結果、インターネットモニターの費用が多くかかることが判明した。そのため、刺激印刷費や出張旅費を抑制し、本年度の研究と次年度の研究に補てんできるように対応した。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越金は、次年度に実施するフィールド実験が本年度と同様に、行動アセスメントの追跡データの精度を向上させるためには予定していた予算より多くかかるため、その補てんとして用いる。
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