本研究では,異なる生活・実践文脈を背景とする話者同士の生産的な対話を示す「共創的越境」を可能とする人材育成を志向し,学問知を活かした大学教育の方法・評価法について検証を進めてきた。 研究期間においては,学習者間のコミュニケーションを志向する教育研究者が多く引用する,ロシアの心理学者ヴィゴツキーと文芸学者バフチンの理論的な研究を進めてきた。また大学における教育方法の最新事情についても検討を行い,共創的越境の促進を進める教育に関する学術的な根拠づけを行ってきた。また実践面においては,大学生100名前後の大型講義を含む複数の授業を対象に,共創的越境への参加能力を高める為の教育法を開発・実施してきた。さらに,受講学生を対象とした質問紙調査や面接調査を実施し,これらの成果を踏まえた,共創的越境力の評価方法の開発も行ってきた。 最終年度は,交付申請書の予定通り,研究実施期間を通して得られた実践モデルの妥当性検証を中心に行った。実践としては,これまでの研究成果を活かし,大学生およそ100名の研究授業において,異質な他者との交渉プロセスを想定した対話型レポートと,従来型のレポートを組み合わせて開発した評価法を実施した。従来型レポートとの比較により,より学習が進み,共創的越境が可能となった学生の対話型レポートの特徴が客観的に明らかになった。また本研究の成果の一部を,研究代表者が所属する東京外国語大学におけるFD研修会の講演を通じて学内の教員に対して共有したほか,大阪教育大学附属天王寺小学校研究発表会では招待講演者として,初等教育の実践者らにもフィードバックすることができた。
|