本研究では,授業の不確実性への教師の対処過程とそこで生じる不安に分析の焦点を絞り,教師のメンタルヘルス維持・向上に資する個人レベルと学校組織レベルの統合的知見を導出することを目的に定めた。この研究目的に従い,学校現場での実地調査を通して,①情動を媒介とした教師の即興的思考の展開と授業改善過程,②教師の不安の内実と対処方略,③教師の不安受容と挑戦意欲を支える学校組織,の3側面を分析した。 本研究の結果、(1)授業の不確実性から生じる不安や喜びといった多種多様な情動が教師の授業改善と即興的思考の展開を支える(H26年度),(2)教師の不安カテゴリー〔教えに関する見識〕と〔生徒に関する見識〕,不安対処カテゴリー〔専門職の学び合うコミュニティ〕と〔コミュニティ・スクール〕はそれぞれ独立変数として教師の不安生起の原因と同時に挑戦意欲喚起の誘因になる(H27年度),(3)教師の不安受容と挑戦意欲を支える学校は生徒の学びを協働で見取る「授業研究」により「専門職の学び合うコミュニティ」を培い,地域との協働連携により「コミュニティ・スクール」を構築発展する,の3知見が主に導出された(H28年度)。 以上に示した本研究の導出知見は、情動を媒介とした教師の即興的思考の展開と授業改善過程を実証するとともに,教師の不安の内実と対処方略が体系的に明らかとなり,授業の不確実性から教師に生じる不安がはじめて学術研究の俎上に乗り,教師の実存に迫る情動研究の前進を促す意義がある。さらに,教師の不安受容と挑戦意欲を支える学校組織モデルの構築は,第一に,教育心理学・社会学・行政学に共通する教育学的知見であり,各領域の教師研究や学校研究の新展開や横断的・萌芽的研究が生まれる学術的波及効果をもち,第二に,学校現場レベルで教師のメンタルヘルス維持・向上を図る組織体制づくりに資する社会的波及効果をもつ重要性がある。
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