研究実績の概要 |
近年,認知科学などの様々な分野で身体性という言葉がキーワードになりつつある。身体性とは感覚運動が人の認知の基盤となっているという考え方である(e.g. Barsalou, 2008)。数学的な能力についてもLakoff & Nunez (2000)が,その獲得過程で生じた感覚と運動経験が数知識の一部を構成していると主張している。特に数にとって重要な身体は,手指である。子どもが,計算したり,数を数えたり,年齢を表すために手指を使用する姿は日常の保育などでも観察される。指の利用の仕方をみてみると,これまでの研究結果から,西洋では,左手の親指に1をマッピングし,順に,人差し指,中指,薬指,小指,右手の小指,薬指,中指,人差し指,そして最後に右の親指を10と数える人の割合が圧倒的に多かった。しかし,日本人を対象とした研究はほとんどなかったため,本年度は,大学生を対象に,数を数える際の手指の使い方について調査を行った。その結果,日本では,西洋と同じ数え方をした人はほとんどおらず,左の親指から数え始める割合が40%,右手の親指から数え始める割合が40%であった。また,日本では,6を左から数え始めた場合は右の親指,右から数え始めた場合は左の親指にマッピングする割合が高かく,6を右手の小指にマッピングする西洋と対照的な結果であった。くわえて,西洋では,指を立てて数える割合が高かったが,日本では指を折って数える割合が高かった。手指の利用の仕方が,数能力の発達にどのように影響を与えているのかについては今後検討する必要がある。
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