平成29年度は、社会的選好性に焦点を当て、自閉スペクトラム症者と定型発達者における視覚刺激への注視時間についてアイトラッカー(眼球運動追跡装置)を用いた検討を行った。刺激として、他者の顔、原型顔刺激(輪郭の上部に2つ、下部に1つ要素があり、顔のように知覚される図形)、および、特に社会的ではない刺激などを用いた。顔情報処理はターゲット刺激を倒立させる(上下逆さにする)と阻害されることが明らかになっているため、正立と倒立、両方の刺激を呈示した。また、発達初期に見られる顔や原型顔への選好は、コントラスト極性を逆転して負の極性にした刺激に対しては見られないことが明らかになっているため、正と負のコントラスト極性の刺激を呈示した。結果、自閉スペクトラム群、定型発達群ともに、社会的選好が確認された。たとえば、正立顔と倒立顔を対呈示した場合、両群ともに正立顔の方を長く注視していた。また、群間での差も確認されなかった。今回は、社会的刺激と統制刺激への注視時間を比較し、社会的選好性の指標としたが、今後は、特性の違いがより大きい刺激への選好を比較することや、注視時間以外の指標を用いることを通して自閉スペクトラム群と定型発達群の社会的選好性の違いを検討することが有益である可能性が考えられる。また、定型発達者が選好性を見せる事物を群間で比較することに加え、自閉スペクトラム者が選好性を示す事物の特徴などについて検討を行うことが重要であると考えられる。
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