本研究では以下の二つの目的を設定していた。目的1. MTMR (multitrait-multirater; 多特性多評価者)データを分析対象とした確認的因子分析モデルにおいて,各特性について計算される方法による重み付き和得点の信頼性係数および収束的妥当性と弁別的妥当性を表す係数を定式化し,各適用領域における実質科学的な知見を活かした重みを検討する。目的2. 同一立場の評価者が複数いるMTMRデータで,測定の信頼性と妥当性を適切に評価する方法を提案する。 これらの目的を達成するための数理的な理論研究は前年度までに完了しており,企業における360度評価の実データを用いて適用例を示してきた。最終年度には,数学・科学分野の参加体験型プログラムへの参加者とその保護者を対象としたアンケート調査のデータと,自己・指導医2名・同僚研修医4名・コメディカル4名による研修医を対象とした360度評価のデータとを新たに分析対象として加え,これまでに開発した手法を適用した。それぞれのデータの分析結果から,目的1および目的2で提案した手法の様々な領域における実用可能性が示唆された。 MTMRデータを用いて測定の信頼性および収束的妥当性,弁別的妥当性を検討する試みは,企業における360度評価を除き,本邦ではほとんど報告されてこなかった。こうした現状の理由の一つとして,360度評価をはじめとするMTMRデータを収集しても,各領域の現場では,その適切な分析方法がわからないという実情があるのではと考える。本研究の成果は,目的に応じたMTMRデータの適切な分析方法および分析結果の解釈について,異なる領域のデータを用いて複数の適用例を示した点でも意義深く,MTMRデータの有用性の再認識と正しい分析方法の普及への貢献が期待できる。
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