本研究の目的は、若手芸術家(芸術系大学の学生、大学院生ら)の熟達過程について、特に、創作活度に対する動機づけの変化や他者(指導者、先輩、同朋など)の影響に焦点を当てた検討を行い、その知見を踏まえた芸術家支援のためのプログラムを開発することである。最終年度であった本年は、質問紙調査及び、過去数年間にわたる縦断研究に協力いただいている研究協力者を対象に、創作活動の記録を収集するとともに、卒業制作(修了制作)の制作過程について情報を収集した。 調査においては、毎月のフォローアップ・インタビューに加えて、制作過程における先輩や同輩とのやり取りなど、他者とのインタラクションによる制作やプランの変化などについても記録を取るとともに、関係者への個別の面談調査も実施した。さらに、希望者に対して制作や今後の創作活動のヒントとなるようなワークショップを企画し、講師として芸術家としてまだ若手の範疇にはあるが、大学等を卒業してから10年近くの経験を積んだ方にお願いして試験的な支援プログラムを実施した。プログラムに関しては、個別の要望に基づいた内容であったため、一般的で応用可能な側面がどの程度用意できるか不明であったが、プログラムの満足度は比較的高かったようである。創作の過程を聞くことで、本人がなぜその方法や素材に関心を寄せるのか、前回の制作から何が発展的に継承され、また更新されているのかなどについて明確にすることが、若手芸術家にとっては重要であることが浮かび上がってきた。
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