最終年度である平成28年度はこれまでの研究成果を整理し,学会発表およびその一部を論文や著書として公刊することを中心に研究活動を行った。 学会では,高齢者と若年者を対象とした嗅覚刺激によって喚起される過去および未来事象の内容の比較に関する研究,嗅覚イメージ能力における加齢の影響に関する研究,嗅覚刺激によって想起された記憶の機能に関する研究などを中心に発表した。いずれの研究でも,高齢者と若年者による差異が示されており,本研究の中心的な課題である嗅覚刺激によって喚起される未来事情には加齢の影響が示唆されることが一環して示された。関連する研究発表も含め,平成28年度の学会発表件数は計12件であった。具体的には,日本発達心理学第27回大会,31st International Congress of Psychology,日本パーソナリティ心理学会第25回大会,日本教育心理学会第58回総会,日本発達心理学会第28大会等で研究発表が行われた。学術論文として,「匂い手がかりによって無意図的に想起された自伝的記憶の機能」が日本味と匂学会誌に掲載され,匂い手がかりによって過去の事象が想起された際には,その後の行為の方向づけが行われやすいことが示唆された。また,「高齢者を対象とした嗅覚と自伝的記憶に関する研究の今後の課題」が大阪産業大学人間環境論集に掲載され,嗅覚と自伝的記憶領域では,高齢者研究がいまだ少ないものの,未来事象,ポジティブ優位性効果など,検証可能性のあるいくつかのトピックについて解説が行われた。その他関連論文も含めて計4編が審査の結果採択された。また,本研究課題の内容を含む著書として「嗅覚と自伝的記憶に関する心理学的研究」が風間書房から刊行された。
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