研究課題/領域番号 |
26780369
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
河崎 美保 静岡大学, 教育学部, 准教授 (70536127)
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研究期間 (年度) |
2015-03-01 – 2018-03-31
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キーワード | 協調学習 / 教師の信念 / 認識論的信念 / 知識構成 / 算数 / デザイン実験 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は1.協調的学びを取り入れた授業デザインに影響を与え,コンフリクトを起こす可能性のある教師の信念を解明すること,2.協調的学びを取り入れた授業を教師と連携して実施し,その中で多様なアイディアや一人ひとりの知識構成につながる過程とメカニズムを解明すること,3.協調的学びの実践経験が異なる教師間の交流や,実践で生じた児童の理解深化過程を振り返ることを通して,教師の信念がいかに再構成されうるかを検証することである。 研究2年目となる平成28年度は,第一に,目的1に関するインタビュー調査を小学校教員1名を対象に行った。5年間の7つの研究授業を通して協調学習に関する信念をどのように変化させたかについて,特に「いかに教えるか」の知識の背後にある認識論的信念の変容,変容を支える人的・物的要因に着目して分析した。結果から授業実践の成果を評価する際に,発話分析や回顧テストといったツールを用いることで協調学習の理解を深めた一方で,その変化は必ずしも不可逆的でなく特定の学習理論と明示的に結びついてはいないことが示唆された。また,協調的な学びの実践経験の少ない複数名の教員に対して,どのような点に困難さを感じるか等の質問紙調査を行った。 第二に,目的2に関して平成27年度に上記とは別の小学校教員と連携して実施した小学6年生算数の授業を分析し,結果をもとに改善した授業を実施するデザイン実験を行った。昨年度の実践について,授業中の解決過程および転移テストの結果に基づき,1.多様な考えが生まれたか,2.多様な考えを比較することで理解を深めたかを検証し,主に課題のデザインについてより効果的な授業デザインを検討し,新たな授業案に反映させた。これらの効果を評価するためのデータを収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1の研究目的に関して,協調的学びの実践経験が比較的豊富な教師を対象に柔軟な授業デザインに影響を与える教師の信念の内容・構造および再構成プロセスに関する仮説を生成した。また授業案を作成し,実践した。協調的学びの実践経験が少ない教員についての信念の調査を実施したが,経験豊富な教員との交流を促進し再構成を支援する段階には進まなかったため,次年度に継続して取り組む予定である。 第2の研究目的に関して,授業における学習者の理解深化プロセスの分析を行い,課題のデザインによる影響を検討した。第3の目的である,実践経験の異なる教師を対象とした調査は平成27年度に先行して実施している。 以上より,計画の進行順序が一部前後している面はあるが,全体としてはおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究の3年目となる平成29年度は,再構成支援および効果検証期として位置づける。 第1に,協調的な授業の実践経験が少ない教師を対象に,経験が豊富な教師との授業案に関する交流を行い,自分とは異なる信念に触れることや新しい授業案での実践経験がどのように信念のy構成に影響するかを検討する。その際に,授業中の学習者の理解深化プロセスを分析した結果を教師が共有することで,再構成の促進を図る。また2年目に示唆された,教師の信念が必ずしも学習理論と明確に結びついていない場合があることと,信念の変容が逆行したり揺らいだりする点に関して,調査対象者も増やして検証し,信念の再構成の抑制・促進要因を考察する。 第2に,実践した授業時の学習者の理解深化プロセスを分析し,3年間の調査を総括し,異なる対象や授業の中で一貫して確認される協調による理解深化メカニズムを解明する。 以上の研究成果をまとめ,国内外の学会,学会誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
授業記録の発話起こしの人件費・謝金として使用することを計画していたが,授業の実施が年度末であったため,発注が次年度に繰り越されたことが主たる理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額については,本年度実施した授業の発話起こしの人件費・謝金に充てることで,次年度の計画に支障なく執行できる予定である。
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