本研究は、5歳児の報酬分配における公正判断について、特に総報酬量の乏しさや豊かさに焦点を当てて、5歳児の平等志向や公正判断の処理過程、豊かさや乏しさの閾値について検討することを目的としていた。 平成29年度は、これまで申請者が行ってきた実験のうち、総報酬量が乏しくかつ平等分配が不可能にしたとき5歳児の公正判断の実験、および奇数の総報酬量が複数あるときでかつ平等分配ができないよう設定したときの5歳児の公正判断の実験結果について、学会発表や論文執筆・投稿を行うとともに、これらを学術誌にて公表してきた。 これらの実験から、1)5歳児の平等志向が二つのタイプに分類可能であること、2)これまで総報酬量が乏しい時には数の認知によって自動的に平等分配が行われるという仮説を支持するデータを見出しているが、総報酬量が乏しい時でも制御的過程が関与して行われる場合があること、3)平等分配を行ったときに作業量を無視しているわけではないこと、4)平等分配ができないときには逆転分配(作業量の少ない人物に多く分配)を用いたり、公平分配(作業量の多い人物に多く分配)や逆転分配を釣り合わせて全体的に平等になるようにしようと試みたりするなどの問題解決を行っている可能性があることを示唆した。 この総報酬量の乏しさ/豊かさに対する5 歳児の処理過程や平等志向、平等にできないときの解決策の検討は、貧困や社会的格差また社会福祉や成果主義などの社会心理的事項に関する基本的態度の起源に関わる重要な意味をもっている。ただし、豊かな総報酬量を含んだときの平等志向はかなり緩やかな推定値(上限)となっていることや、5歳児が平等分配できない時の問題解決策については分配理由との関連をみていく必要があること、報酬1個の価値や豊かさ/乏しさの閾値の実験を分析するなど、さらに検討していく必要がある。
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