本研究の目的は、従来の批判的思考教育における個人の批判的思考を育むというアプローチに加えて、他者の批判を活用するというアプローチに着目し、その可能性について検証することである。本年度は、他者の批判を活用するプロセスを明らかにすることを目的として、批判への接触効果を明らかにするための実証実験を実施した。「他者の批判の質の効果」および「情報受信者(観察者)の個人差要因の効果」を検証するため、合計242名を対象に、デマ、科学的事実、またそれらに対応する批判をTwitterのような短い文章としてオンラインで呈示し、それらに対する信念(正しさ、重要性、関心)の評定を求めた。デマに対する批判の質については、参加者の半数には客観的な証拠を引用した批判(客観的批判)を呈示し、残りの半数にはは主観的経験にもとづく批判(主観的批判)を呈示した。その結果、客観的批判の呈示は主観的批判と比べてデマに対する誤った信念緩和する傾向があることが明らかとなった。一方で、客観的な批判に接触された群は、デマだけでなく科学的事実に対する信念も弱めてしまう傾向があることも示された。また、このような批判呈示による信念変化の傾向は個人差があり、性別やソーシャルメディアの使用経験との関連がみられた。
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