本研究の目的は、中高年期の職業歴が高齢期の認知機能へ及ぼす長期的な影響について、職務上の認知的負荷の高い仕事内容とストレス経験による2つのメカニズムから明らかにすることである。 H26年度は、70歳代から90歳代の幅広い年齢の高齢者のデータを用い、認知的負荷の高い仕事に就いていた人は高齢期の認知機能が高いことを示した。また、中年期の職業性ストレスを包括的に評価する質問項目を作成し質問紙調査を実施した。 H27年度は、H26年度に実施した質問紙調査の内、認知機能のデータのある634名(女性50.5%、2013年度現在平均73.0±0.9歳)のデータを用い、本職業性ストレス尺度の特性を把握し、認知機能との関連を検討した。本職業性ストレス尺度の各項目の記述統計量の結果から、「単身赴任」「出稼ぎ」「引越し」「能力を活かす」「技術や知識」「失業」の項目の回答には床効果または天井効果の偏りが示された。項目間の単相関係数を算出した結果では、関連の強度は弱いが、解釈妥当な相関関係が全般に示された。 次に、認知機能を従属変数とし、認知的負荷の高い仕事と職業性ストレスを説明変数とした重回帰分析を行った。その結果、総合的な認知機能に対して、認知的負荷の高い仕事は正の関連を示し、職業性ストレスは負の関連を示した。しかし、職業性ストレスの項目には正の関連を示す項目が一部みられ、一貫した結果は得られなかった。 本研究の結果から、認知的負荷の高い仕事は職業性ストレスとは独立して高齢期の認知機能と関連することが示され、中高年期の職業歴が高齢期の認知機能の個人差に影響する可能性が示唆された。今後、職業性ストレスの項目精査を行い、対象者のライフコースを考慮した分析を行う必要がある。
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