最終年度には、メンタルケアの技法に関して、より多角的な観点から研究を発展させた。認知行動療法を軸としたメンタルケアの実践をより広げて、発達障害(特に自閉症スペクトラム障害)を併せ持っている性的マイノリティに関するテーマについても扱った。性別違和と自閉症スペクトラム障害の併存は、複数の国において課題として認識されており、対人機能、身体治療、いじめ被害のリスク、就業における社会的スキルの問題、心理療法におけるコミュニケーションの問題、ジェンダー・アイデンティティの形成・統合の困難などがあり、メンタルケアの際には留意すべきである。 また、メンタルケアと関連して、性指向(どちらの、またどのような性別に対して性的関心をもつか)や性行動がどのように関連しているかをまとめた。性指向は、性的関心、恋愛感情、ファンタジー、実際の恋愛関係など、多くの側面から捉えられる概念である。人間のライフステージの中では、職場や学校とともに家庭も大きな領域となるが、性的マイノリティの人々と家庭生活・家族との関わりについても論じた。 さらに研究の発展として、性的マイノリティとセックス・セラピーに関する問題も扱った。セックス・セラピーとは、性機能障害などの理由によって、セックスがうまくいかない問題に対する心理社会的なアプローチである。従来、主に男女の異性愛カップルについて研究と実践がなされてきた。これを、性的マイノリティやパラフィリアをもつ人々にも対象を拡張し、ケア技法の提案や、適用可能性の検討を行った。
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