本研究は,外傷性ストレス体験後に生じるPTSD (外傷後ストレス障害)の発症と維持のメカニズムを解明し,効果的な支援方法を明らかにすることを目的とした心理学研究である。具体的には,外傷性ストレス体験者の否定的・肯定的な認知と活動に着目した心理的介入が外傷後ストレス症状や生活適応に及ぼす効果について明らかにすることを目的としている。 今年度は,昨年度の研究成果に基づき,思考内容が行動を制御するための他の有用な資源を抑えて支配的になる傾向を示す認知的フュージョンに着目し,外傷後ストレス症状に影響を及ぼす認知行動的プロセスを検討した。その結果,認知的フュージョンは,トラウマや外傷後ストレス症状に対する否定的認知を媒介し,外傷後ストレス症状を悪化させるというプロセスが示された。認知的フュージョンは外傷後ストレス症状のみならず抑うつにも影響を及ぼすことが知られているため,生活適応を改善するための有効なターゲットになる可能性が高い。そのため,本プロセスのさらなる解明とその結果に基づく新たな介入技法の開発と効果に関する検証が期待される。 本研究を通して,外傷性ストレス体験後に生じるPTSDや生活支障度を改善するための方策を複数提案することができた点は意義が認められる。今後は,どのような介入技法やその組み合わせがより効果的であるか引き続き検討していくことが求められる。なお,本研究の成果は,国内外で発表されている。
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