本研究は、肯定的な転換的語り直しの効果を促進する認知的なシステムを特定することで、ネガティブ体験の認知的再評価から心的外傷後成長に至るまでの一連の心理的回復・成長モデルを構築することを目的とした。 2015年度の研究結果からは、語りの目的に沿う転換的語り直しの使用が、感情を制御させるだけでなく、過去の体験を未来へとつなげるような肯定的影響を有することが確認された。しかし、心的外傷後成長(以下、PTGと表記する)到達の根幹となる肯定的な転換的語り直しは、誰もが容易に行えるわけではない。 そこで、我々が過去に体験した出来事を日常的にどのような目的で語り直すのかを評価することで、PTGへと至りやすい語り直しの特徴を容易に検出するための質問紙(Re-tale:Re-telling About Life Experiences)を作成した。Re-taleは3つの評価特性(否定的語りの反復、肯定的語りの反復、転換的語り直し)から構成された。その後、質問紙と複数の質問項目(記憶の特徴に関する3つの指標:(1)Centrality of Event Scale、 (2)Meaning making in memory、 (3) Intrusive items for Event Related Rumination Inventory(ERRI)。過去の回想特徴を特定する指標:日本語版TALE)との関係性を確認した。その結果、以下の内容が確認された。
1、語り直しには2つのステージが存在すること、複数回の語り直しが記憶の肯定感を高め、自己成長感を促すこと。 2、複数の語り直し方略を偏りなく用いるグループは、過去のネガティブな記憶を再解釈する能力が高いこと。
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