研究実績の概要 |
心理的問題を抱える児童・生徒・学生は珍しくなく、スクールカウンセリング(以下、SC)や学生相談へのニーズは高い。しかし、これらの心理援助サービスの経済的便益については実証的に明らかにされておらず、その費用対効果は不明瞭である。そこで、本研究では教育領域における心理援助の経済的価値を明確化し、費用便益分析実施のための基礎資料を作成することを目的とした調査を実施した。1年目は、調査実施時の情報提供資料(仮想的シナリオ)作成のため、学生相談やSC制度に関する文献レビューを行った。このレビューを元にして作成された仮想的シナリオを用いて、SC制度に対する支払意思額の推定を目的とした調査を行った(n = 600)。その結果、SC制度の利用に対する支払意思額の中央値は1332円/年と推定された。支払意思額と調査協力者の属性の関連を検討した結果、現時点でのカウンセリングサービスの利用および子どもがいることと支払意思額の高さは統計的に有意に関連をしていた。2年目は、大学生のカウンセリングを受けることに対する態度尺度を活用して、大学における学生相談利用への支払意思額を測定するツール(末木, 2013)の妥当性について検討するための調査を実施した(n = 642)。調査は、研究実施者の所属大学の学生に対して質問紙を配布・回収することに加え、インターネット調査会社への委託を行うことにより実施された。その結果、カウンセリングの有効性への信頼性の高さと学生相談への支払意思額の高さが統計的に有意に関連していることが示唆され、学生相談への支払意思額尺度は一定の妥当性を有すると考えられた。3年目は、これまでの調査内容を論文化し、公表するための作業を行った。
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