研究課題/領域番号 |
26780405
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研究機関 | 京都橘大学 |
研究代表者 |
田中 芳幸 京都橘大学, 健康科学部, 助教 (50455010)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 精神的健康 / 精神的健康の二次元モデル / 主観的ウェルビーイング / 心理的ウェルビーイング / いきいき度 / 精神症状 / ストレス / ストレス過程 |
研究実績の概要 |
多母集団同時解析による確証的因子分析や並存的妥当性の検討により、改訂-いきいき度(田中ら、2006)の下位尺度である満足感とネガティブ気分の上位に、SWB高次因子を想定できることを実証した(Tanaka & Tsuda, 2016やTanaka et al. 2016)。さらに共分散構造分析により、SWBのストレス緩衝効果も確認した(Tanaka & Tsuda, 2016)。また、SWBとその類似概念とされる心理的ウェルビーイング(Psychological well-being; PWB)との相関係数を検討したところ、PWBの構成要因である自己受容で高値(r=.67)を認めたものの他の要因では中程度以下の値(.12<r<.49)であった。 これらの結果を踏まえて、PLS-RによるSWB高次因子を用いて、PWBの下位要因やストレス関連要因、精神症状との関係性を検討した。ストレッサーやストレス反応の自覚、ストレスを脅威と評価することにはSWBが、ストレスのコントロール可能性やコーピング、ソーシャルサポート感にはPWBが、それぞれ関係した。これらWBとストレス関連要因との関係性には精神症状の高低による違いがみられ、特に精神症状が低い場合には、旧来ストレス緩衝要因とされる認知的評価やコーピング、ソーシャルサポート感にPWBのみが影響し得ることも示した。 これらの成果は、従来の研究で混同されがちであったSWBとPWBとがストレス過程へ及ぼす影響性が異なることを示し、個人のストレス緩和への方向性を示唆する点で有意義だと考える。また、個人の精神症状の如何によってWBのどういった側面に注目すべきかを示す点でも意義がある。一連の本研究課題における次年度以降内容にとっても、SWBとPWBの両面を見据えつつ本研究を推進すべきことが見いだされた点で重要な成果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き精神的健康の二次元モデルにおける主観的ウェルビーイング(SWB)次元についての検討を継続し、一連の研究で中核概念となるSWBの測定尺度を確定できた。申請時に想定していたPLS-Rの各下位尺度を超えて、満足感とネガティブ気分の上位にSWBの高次因子を実証できた点は当初計画以上の成果だと考えている。 また、申請時にはSWBの類似概念として差別化をはかるために測定内容としていた心理的ウェルビーイング(PWB)についての検討を進められた点も当初計画以上の成果である。今年度に発表された最新論文も含めて検討を継続していたことにより、当初計画では今年度計画に含めていなかったPWBに関する短縮版尺度(岩野,2015)を含めて、今年度の調査を実施できた。 PWBS短縮版を含めて今年度計画の調査を実施して精神的健康の二次元とストレス過程との関連性を検討できた。このことによって、当初に仮説したSWBのストレス緩衝効果だけでなく、SWBとPWBとでストレスメカニズムの各過程における役割が異なり、その役割が精神症状の高低によって異なることまでを明らかにできた。 ただし、当初計画に示したデータ収集数に達していない点で、計画以上の進展とは自己評価しないことにした。先述のSWBとPWBおよび精神症状とストレス過程との知見を確定するには、継続的にデータを収集する必要があると考えている。この点について次項「今後の研究の推進方策 等」に示す通り、次年度以降の研究計画とあわせてデータ収集を継続することにしており、全般としておおむね順調との達成度と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度もおおむね順調な達成度であったことから、当初計画に沿って今後の研究を推進したい。すなわち平成28年度から29年度にかけて、二次元論に基づく精神的健康状態による心理生物学的ストレス反応の誘起と回復の違いについて検討しつつ、心理生物学的ストレス反応の誘起を低減したり回復を促進したりするポジティブな心理的機能を実験的研究によって明らかにする計画である。 ただし今年度の調査研究で収集したデータが十分とは言えなかったことから、平成28年度には平成27年度と同様の調査を継続的に実施する。これは申請時の研究計画からの変更点であるが、当初計画でも平成28年度以降に、実験参加者抽出を目的として精神的健康の二次元に関するスクリーニング調査を予定していた。このため、スクリーニング調査の内容にストレス関連指標を加えたうえで、連結可能匿名化の処理を施して調査研究も実施することにより、今後の研究推進を計画通りに展開することが可能である。むしろ調査研究と実験的研究という双方の研究への参加者を確保する上での困難と対象を大学生としていることを鑑みるに、年度当初に調査研究を展開しつつ、そこで得たデータにより明らかとなる各人の精神的健康状態をもとに実験的研究への参加者を抽出するという手順は有益な計画変更だと考えている。 もう一点考慮しておきたいのは、平成29年度に計画している主観的ウェルビーイング(SWB)下位概念ごとの実験的研究についてである。今年度の成果により、SWBとは独立して心理的ウェルビーイング(PWB)がストレス緩衝の効果を発現することが示唆された。SWBの下位概念ごとの検討に限定するよりもPWBを含めて検討した方が、社会的意義が高いかもしれない。先述の平成28年度に継続する調査研究の成果を踏まえつつ、平成29年度の研究開始前までに決定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費・謝金を削減したことと成果発表のための旅費を抑えられたことが理由である。昨年度に協力者への謝金支払いを避けたため、本年度の内容が昨年度と同様の調査研究であったことを踏まえて謝金の支払いは行わず、調査結果の一部を協力者へフィードバックすることで対応することにした。昨年度の調査研究で課題となったマークシート読みとりでのデータ入力を避け、またデータの詳細を把握しつつ解析するために、研究代表者自身でデータ入力をしたり解析補助者を置かなかったりしたことも人件費の削減につながった。また国内学会発表のために計上していた研究旅費について、学会時に本研究課題に関わるものとは別の業務が複数発生したことから使用を避けた。国際学会発表にともなう研究旅費についても、参加した学会大会の開催地が東アジアと近隣国であり、時期的にも割安であったため、大きく削減された。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでに収集したデータについてさらに解析を進め、かつ、計画変更に伴う次年度の調査研究でのデータ収集ならびに全データを用いた解析を進めるために活用したい。この点において、研究代表者の本研究に対するエフォートの増加を鑑みるに、データの入力や整理等を行う補助者への研究に関する説明等を十分に行う必要性を感じるため、これにともなう支出と研究補助への人件費が見込まれる。次年度からは実験的研究を計画しているため、実験資器材に精通した研究補助者を確保するための支出、研究補助への人件費を当初計画通りに見込んでいる。また、実験協力者の時間的負担等を鑑みるに、この謝金については削減せず、計画通りに活用予定である。昨年度報告にも記した通り実験的研究については、当初計画にて想定していた測定内容よりも本研究に適した測定手法の存在を確認したため、このための機材充実にも活用したい。
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