研究実績の概要 |
加齢が意思決定に及ぼす影響について検討する本調査に向けて、60-70代の高齢者312名と20-30代の若年者312名を対象に予備調査を実施した。予備調査の目的は、がん医療における終末期の治療選択状況(延命治療か緩和ケアか)でみられる高齢者の意思決定の特徴を、シナリオを用いた質問紙調査によって探ることであった。 分析の結果、高齢者は若年者に比べて、自らががんの終末期であった場合の治療選択として、延命治療を望まなかった(χ2=4.50, p<0.05)。同様に、家族ががんの終末期であった場合に治療選択においても、延命治療を望まない傾向がみられた(χ2=2.73,p<0.10)。そして、その決定に対するつらさや困難さは、いずれの場合も若年者に比べて少なかった(自分シナリオ;つらさt=4.01, p<0.01;困難t=4.61, p<0.01;家族シナリオ;つらさt=4.51, p<0.01;困難t=4.77, p<0.01)。感情調整に関しては、抑制方略には差がないものの(t=2.35, p<0.01)、再評価方略に関しては若年者に比べて高齢者が有意に高かった(t=0.02, p<0.01)。意思決定の理由について尋ねている自由記述項目において、高齢者は若年者に比べて、論理的な根拠よりも情動的な根拠を挙げ、かつ、選ばなかった選択肢のデメリットよりも選んだ選択肢のメリットを挙げる傾向がみられ、これは社会情動的選択性理論を裏付けるものとなった。 これまでの研究において、高齢者は、認知的負荷が増した状況における合理的な意思決定は若年者に比べて劣るとされてきた。しかしながら、合理的な意思決定自体が不明確な医療場面の意思決定においては、感情調整の再評価方略が促進されている高齢者は、満足度の高い、あるいか後悔の少ない意思決定という意味において効率的な意思決定行っている可能性が示唆された。
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