本研究の目的は、眼球運動の測定を通して、ロールシャッハ法における色彩ショックの発生メカニズムを視覚的注意の観点から明らかにし、そこから得られた知見に基づいて色彩ショックの解釈法の整理を行うことであった。 この目的を遂行するためには、健常群のロールシャッハ反応産出過程における眼球運動の詳細な推移を明らかにした上で、健常群と臨床群の様々な眼球運動指標の比較を行い、色彩ショックのために着目すべき指標を調査する必要があった。本研究の大半はこの調査に費やされたが、その結果として複数の研究成果が発表された。 続いて、本研究の主要な目的である、色彩ショックの発生メカニズムの解明について、眼球運動測定法を用いて検証した結果について延べる。本研究では健常者20名に対してロールシャッハ法実施下における眼球運動を測定し、そのうち適切に眼球運動が測定された11名について、色彩ショックの指標である反応初発時間と反応内容、そして反応産出直前の5秒間に注視していた領域との関連性を調査した。その結果、色彩ショックと思われるような、著しい初発反応の遅れと損傷的な反応内容を示した1名には、赤色領域への集中的な注視が行われていたことが確認された。しかし、色彩ショックが認められなかった10名のうち4名にも、赤色領域への集中的な注視が確認された。よって、現状では、赤色領域への集中的な注視が色彩ショックに特有の現象であるという結論を導き出すには至っていないと言える。
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