小児がんの治療が成長発達に及ぼす影響について、国際的な調査が進められている。その中でも、子どもの認知機能に関する調査は中心的な課題となっている。なぜなら、子どもは治療後に教育と就労というライフステージを迎えねばならず、各段階での進路は認知機能の水準に大きく依存してくるからである。 そこで、本研究では小児がんの子どもたちの認知機能の推移について、骨肉腫をひとつのモデルケースとして経時的調査を行った。骨肉腫は知的な能力に影響を及ぼすかもしれないメソトレキセートという抗がん剤を多く用いるからである。しかしながら、日本では骨肉腫経験者の認知機能や心理的なアセスメントについて測定したものはほとんどなく、実態はいまだ明らかになっていない。 本研究では、12人の骨肉腫に罹患した子どもに、認知機能検査および心理的なアセスメントを1年ごとに実施し、トータルで3年間、追跡調査をした。その結果、一人を除いて、知的な能力を含む認知機能には問題がみられなかった。また、意欲を含む心理的な状態に関しても、日常生活に支障をきたすような特徴は見られなかった。一方、12人中一人は、知的な能力が平均よりやや低かった。その原因がもともとの本人の能力の水準なのか、個人の薬剤感受性によるものかはわからない。しかし、そのようなケースが見つかれば、すみやかに教育上の合理的配慮を求めることにより、本人の学習能力を支援することができる。 今後は、骨肉腫の認知機能および心理的アセスメントから教育支援に連結できるよう、症例数を増やしていく必要がある。
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