平成29年度はまず,情景認知における手の知覚と眼球運動による注意の移動との関連を検討した研究について,一般化線形モデルを用いた新たな分析を行った。その結果,物体と相互作用している手(道具を持つ,など)は,そうでない手(ただ膝の上に置かれている,など)よりも注意を引きややすいという発見がさらに確かなものとなった。また,人物像を含む情景の観察時に,注意はまず人物像の顔にひきつけられ,続いて手に向けられる傾向があることも確認できた。これらの成果を踏まえて論文のリライトを行った。論文は国際ジャーナルに投稿され,現在,レビューを経てリバイズ中である。 また,別の側面からの研究として,手が行うジェスチャーの理解に関する実験的検討を行うことができた。具体的には,他者の指さしのジェスチャーが注意を誘導する効果について,他者の視線が注意を誘導する効果との相互作用を検討した。視線の刺激(たとえば,右に目を向けている顔の写真)や,指さし刺激(たとえば,右を指さしている手の写真)を提示すると,その方向に注意が誘導されやすいことは,それぞれ単独では知られている。しかし現実には,ヒトは視線と指差しの両方を組み合わせてジェスチャーを行うことが多いので,両者を同時に提示して実験参加者の注意がどのように誘導されるかを検討することは重要である。その結果,期待に反して視線と指差しがそれぞれ注意を誘導する効果の間に相互作用は見られず,それぞれ独立に注意に影響している可能性が示唆された。
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