研究課題/領域番号 |
26780413
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
福田 一帆 工学院大学, 情報工学部, 准教授 (50572905)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 色覚 / 物体色 / 色恒常性 / 分光反射スペクトル / 最明色 / オプティマルカラー |
研究実績の概要 |
人が物体の色を安定して見ることができるのは,無意識に照明光の影響を差し引くメカニズムが視覚系に備わっているためと考えられている.このメカニズムに関して,観察シーンの色情報と差し引かれる照明光の影響との関係を数値的にモデル化することを目的として,人間の色覚特性を調べる心理物理実験と,自然環境に存在する色情報の測定を平行して進めている. 1.知覚的な物体色の限界輝度の測定.人が物体表面の色として感じられる限界の明るさを求めることを目的とした実験を開始した.実験参加者は,コンピュータで作成した画像中のテスト領域の輝度を物体表面と知覚される上限の輝度に設定する.テスト領域の周囲は様々な色の幾何学図形がランダムに配置されており,その色情報は実験条件として制御されている.今後は実験を進め,下記の測定データとの比較をおこなう. 2.自然物の分光反射スペクトルの測定(経験的な物体色の限界輝度測定).人間が自然環境において目にする物体表面からの反射光の色度と輝度のデータを収集するために,分光放射輝度計を用いて,花,葉,草,樹皮,果実,石などの自然物表面400サンプルの分光反射スペクトルの測定を実施した.既存のデータベースと異なり,特に本測定においては,自然界に存在する様々な色度の物体について最も明るい色を「経験的な物体色の限界輝度」として表すことが目的のひとつであるため,サンプルには明度または彩度の高い様々な色相の自然物を選択した.結果の解析として,測定データを標準光源D65のスペクトルと掛け合わせて色度と輝度を求めたところ,特に緑色の領域において「経験的な物体色の限界輝度」と,物理的な拘束条件から計算して求めた「物理的な物体色の限界輝度」との乖離が見られた.この結果を踏まえて,今後の測定においては,緑色物体のデータ拡充,および葉などの透過率も含めた測定の必要性が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年9月の所属研究機関の変更に伴い,当初今年度に予定していた国際会議発表および論文発表,分光反射スペクトル測定結果の解析の一部を,次年度に延期することとなった.その一方で,研究課題全体としての進展に遅れが生じないよう,次年度に予定されていた心理物理実験を所属機関変更前に開始して実験方法を確立した.以上により,研究課題全体からみて初年度の達成度としては,おおむね順調に進展していると評価する.
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今後の研究の推進方策 |
物体の分光反射スペクトル測定とその解析に関しては,特に緑色の自然物体の分光反射スペクトルのデータ拡充,および分光透過スペクトルの測定を実施することにより,経験的な物体色の限界輝度と物理的な物体色の限界輝度の乖離の真偽を確かめる.また,経験的・物理的それぞれの物体色限界輝度を色空間における面として表すことを平成27年度の目標とする. 心理物理実験に関しては,知覚的な物体色の限界輝度を色空間における面として表すため,周辺の幾何学図形の色情報の条件,テスト領域の色度の条件を制御して,実験を実施する.その結果と,物体の分光反射スペクトル測定結果にもとづく「経験的な物体色の限界輝度」および,物理的な拘束条件から計算して求めた「物理的な物体色の限界輝度」との相関を評価する.また,観察シーンの色情報と差し引かれる照明光の影響との関係を数値的にモデル化することを平成27年度の目標とする.研究課題最終年の平成28年度においては,実風景を用いた心理物理実験により,提案する計算モデルの評価と推定精度の向上を狙う.
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年9月の所属研究機関の変更に伴い,当初今年度に予定していた国際会議発表,リサーチアシスタントを必要とする測定や結果の解析,論文発表の一部を次年度に延期することとなった.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については,国際会議発表経費(International Colour Vision Society 2015),実験実施および測定や結果の解析のリサーチアシスタント人件費,および所属機関変更にともない必要となる物品購入に使用する.
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