色恒常性における照明光推定メカニズムに関して,観察シーンの色情報と差し引かれる照明光の影響との関係を数値的にモデル化することを目的として,人間の色覚特性を調べる心理物理実験と,自然環境に存在する色情報の測定結果から,色恒常性における照明光推定モデルの作成をおこなった. 1.知覚的な物体色の限界輝度の測定.色恒常性モデルへの適用のために,人が物体表面の色として感じられる限界の明るさを求めることを目的とした実験を実施した.実験参加者は,コンピュータで作成した画像中のテスト領域の輝度を物体表面と知覚される上限の輝度に設定する.このとき,実験に使用する画像は,自然風景画像と抽象画像の二種類を用いた.自然風景画像は,草花が写る画像を類似色をまとめることで20色に色数を減らした自然風景刺激を用意した.次に,その自然風景刺激に存在する20色を各色の面積比が維持されるように,全て円形で置き換えたものを抽象刺激とした.これらの実験刺激に対して,自然風景刺激における花の領域をテスト領域として,物体色と知覚される上限の輝度を求めたところ,刺激条件間に有意な差が表れ,物体色知覚にシーンの構成要素や質感が影響することが明らかになった. 2.色恒常性における照明光推定モデルの作成.課題研究実施者らが既に発表している色恒常性オプティマルカラーもでるの改良および評価をおこなった.このモデルでは,与えられたシーンの各点における色輝度情報を,オプティマルカラー(最明色)の色輝度情報と比較することにより,最も一致度が高い照明条件を探索する.一致度評価には最小二乗法をベースとした計算方法を用いて,当研究課題で測定した自然光の分光スペクトル,自然物の分光反射率データを用いてモデルによる計算結果を評価したところ,従来モデルよりも特にシーンに存在する色の偏りに対しても堅牢な推定が可能であることが明らかになった.
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