本年度では,統計的規則性の学習による記憶促進および記憶抑制過程の神経基盤を検討するために,fMRI実験を実施した。 メインの実験は学習フェイズ,再認記憶フェイズで構成された。学習フェイズでは,3つのオブジェクト刺激が同じ順序で呈示されるトリプレット刺激列,ランダムな順序で呈示されるランダム刺激列をミックスした刺激列を作成し,参加者はこの刺激列を交互に観察した。学習フェイズの後半では,トリプレット刺激列およびランダム刺激列の間に妨害刺激として文字が挿入された。再認記憶フェイズでは,学習フェイズで呈示されたトリプレット刺激列とランダム刺激列のオブジェクト,学習フェイズでは呈示されなかった新奇なオブジェクトが,1つずつランダムな順序で呈示された。参加者は,直前の学習フェイズで実際に見たオブジェクトか見ていない新しいオブジェクトかを判断した。このような再認記憶課題は,トリプレット刺激列に挿入された文字刺激に対しても実施された。 実験の結果,ランダム刺激列のオブジェクトと比較して,トリプレット刺激列のオブジェクトに対する記憶成績が高いことが示された。一方で,規則性を妨害しない文字と比較して,規則性を壊す文字に対する記憶成績が低下することが示された。これらの結果は,規則性の学習が刺激列を構成する個々の構成員に対する記憶を促進し,規則性を壊す妨害刺激に対する記憶を抑制するメカニズムが存在することを示唆しており,昨年度までの先行実験の結果が追試された。課題遂行中の脳画像については,現在解析中である。
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