研究実績の概要 |
最近の認知症研究などから、ヒトの視覚認知機能が正常に働くためには、視覚皮質内のアセチルコリン(ACh)が必要不可欠であることが分かってきた。しかし、AChがどのように視覚情報処理に関与するのかは依然として未解明のままである。 これまでに、麻酔下の動物(サルやラット)において、AChが視覚皮質ニューロンに与える影響を検討したところ、多くのニューロンにおいて視覚応答を増大すること(反応ゲイン調節)、また、その修飾作用は、ACh受容体サブタイプの中のムスカリン性受容体が重要な役割を果たしていることを見出してきた(Soma et al., J Neurophysiol, 2012;Soma et al., Sci Rep, 2013)。 しかし、覚醒動物においてAChによる反応ゲイン調節がどのような視知覚を引き起こすのかは明らかとなっていない。そこで、本研究では、視覚皮質にAChを放出する前脳基底部のコリン作動性ニューロンを薬理学的に操作することで、覚醒動物の視覚機能、特にコントラスト感度が変化するかを検討した。これに先立ち、H26年度は、自由行動下のラットに、視覚機能検出課題を短期間で学習させる実験システムを確立し(Soma et al., Physiol Rep, 2014)、その有用性を実証した(Soma et al., Front Aging Neurosci, 2014)。これにより、前脳基底部のコリン作動性ニューロン選択的に破壊したモデルラットにおいても短期間での実験が可能となると考えられ、視覚皮質におけるAChの機能的役割の解明に近づくことが期待できる。
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