研究実績の概要 |
本研究計画では就学前児のコミュニケーション能力を明らかにするための一環として、就学前児がさまざまな「はい」か「いいえ」で答える質問(以下、YN質問)に反応バイアス(回答の偏り)を示すか検討した。本年度ではAとBの特徴を兼ね備えた対象物を、より曖昧度を高め(たとえば半分がりんご、半分がオレンジの対象物)、再度、3歳児と5歳児を対象に実験を行った。しかし、どちらの年齢の子どもも、こうした質問には肯定バイアスを示さなかった。日本の3歳児がYN質問に対し明らかな肯定バイアスを示さなかったのは、曖昧な対象物を示した場合のみであった。質問者も回答が分からないような情報探索型の質問に対しては、そもそも肯定バイアスが見られにくい可能性もある。前年度までの研究と合わせ、本研究結果は論文にまとめ、現在、国際学術雑誌に投稿中である。 本年度はさらに、3歳児と5歳児において質問者(大人)に気を使った肯定バイアスが見られるかについて調べた。具体的には、下手な輪投げやお絵かきを示した後に「わたし、うまかった?」や、望まないプレゼントを渡した後に「うれしかった?」と聞いた。カナダの先行研究では、こうした文脈において、3歳ごろから相手のための嘘(白い嘘)をつく(はいと答える)傾向が見られることが報告されていたが(Talwer & Lee, 2002, Talwer, et al., 2007)、日本の3歳以上の子どもでは、ほとんどこうした傾向は見られなかった。日本における白い嘘は、欧米とは異なる可能性があり、今後の検討課題である。現在、本研究についても論文にまとめようとしているところである。 その他、ハンドパペットのかわりにロボットを社会的圧力の低い質問者とした研究結果について、国際学術雑誌において発表したほか、ハンガリーと日本の子どもにおける反応傾向の違いに関する国際比較も引き続き行った。
|