本研究は、視覚事象の予測をしている二つの予測機構、刺激文脈ベースの予測機構と行為ベースの予測機構の協調メカニズムを、脳波の一種である事象関連脳電位(ERP)を用いて解明することを目的とする。刺激文脈ベースの予測機構は、視覚オブジェクトの現時点までの文脈からルールを抽出し、それを基に瞬時に予測モデルを形成することで、そのオブジェクトが次にどう変化するのかを事前に予測する。一方、行為ベースの予測機構は、我々が自己の行為によって環境に働きかける際、その行為によって環境にどのような変化が生じるかを事前に予測する。この二つの予測機構の協調メカニズムを調べるため、今年度は特に、平成26年度および27年度に同定した、刺激文脈ベースの予測機構と行為ベースの予測機構のそれぞれ反映するERP成分を指標に、二つの予測機構の働きの関係性を調べる実験を行った。その結果、(1)刺激文脈ベースの予測と行為ベースの予測が異なる視覚事象を予測した場合、刺激文脈ベースの予測機構の働きを反映する視覚ミスマッチ陰性電位(visual mismatch negativity)とよばれるERP成分の惹起パターンが、行為ベースの予測機構の働きによって変化すること、(2)この惹起パターンの変化は、行為ベースの予測機構が、刺激文脈ベースの予測機構の働きを一時的に停止(フリーズ)させることで生じている可能性が高いことがわかった。二つの予測機構の協調メカニズムの階層的関係性の仕組みを示す重要な知見が得られた。
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