近年わが国では学級崩壊などの教育問題がクローズアップされるとともに、教師による学級経営の指導力が求められている。本研究はこのような教育の現代的課題に対して歴史的な示唆を提示することを目指して、新教育運動の中で形成された学級観や学級経営論の特質、その実践の具体相を明らかにすることを課題としてきた。このような課題に基づき、平成29年度は、主として以下の調査や分析を進めた。 第一に、東京女子高等師範学校附属小学校の実践に関する調査と分析を行った。まず、訓導に関する史料収集を進め、学級経営に関する彼らの認識や取り組みの内実を明らかにした。この点については、同校の主事北澤種一が提唱した学級経営論の影響を視野に入れた分析を行い、得られた知見については論文にまとめて学会誌に発表した。 第二に、わが国でも最も普及したとされる新教育の代表的なプランである、ドルトン・プランを取り上げ、それがわが国の学級経営に与えた影響に関する基礎的な調査と分析を行った。従来の研究では、ドルトン・プランに対するわが国の実践家たちの関心は、1920年代半ばまでには衰退したと指摘されてきたものの、彼らがそれに対してどのような関心を抱いていたのかは十分に検討されてこなかった。本研究では、同プランの理念である「学校の社会化」や「協働」の原理の重要性が、むしろドルトン・プランが衰退したとされる1920年代半ば頃に認識されるようになっていったことを明らかにし、論文や著書にまとめてその知見を発表した。
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