研究課題/領域番号 |
26780432
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
下司 裕子(北詰裕子) 東京学芸大学, 教育学部, 講師 (30580336)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 17世紀 / コメニウス / 教育思想史 / 表象 |
研究実績の概要 |
本研究は、近代教育の祖と位置付けられてきたコメニウス(J.A.Comenius, 1592-1670)の教育的提示・伝達形式の成り立ちを17世紀当時の社会的・文化的・宗教的文脈のなかで読み解くものである。諸価値の移行期の只中において次世代に伝達すべき「世界像」をどのようにモデル化し、それに関連する有意味な諸価値をいかに取捨選択・再構成し、伝達しうるのかという問いに向き合ったコメニウスの教育思想から、現代の教育における「表象」の問題(「何をいかに選び、どのような形式で教えるか」)に対して、積極的な示唆を与えることを目指す。そのため、特に、コメニウスの教育構想における「表象representation」の特異性を、絵入り本『世界図絵』と学校演劇脚本『遊戯学校』という著作から明らかにする。初年度は、今後の分析のためのラテン語原典の精読・翻訳を中心に進めた。特に『遊戯学校 Schola Ludus』を、1657年出版の『教授学全集 Opera Didactica Omnia』の復刻版におけるものと、アカデミアから出版されている『コメニウス全集 Opera Omnia』に所収されたものを比較参照しつつ、精読と翻訳(訳語の検討)を進めた。地道かつ時間のかかる作業であるが、しかし文献研究において原典精読は欠かせない作業であり、次の思想史的分析に進むための実証的土台となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この一年の解読・翻訳により、次の段階である17世紀的な文脈の中における分析が可能となった。特に『遊戯学校』に関しては、実際の8幕分の台詞と共にコメニウスの献呈状や学校関係者への注意、また、今後を引き継ぐ教育者たちへの「書き直し」への助言など、当時のコメニウスの教育観を伝える部分も多く、同時代の演劇への関心や、学校教育における「書物」的知の身体化に関わる分析へ続く道が開かれた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、コメニウスにおける教育的「表象representation」の特徴を、当代の複数の文脈の重なり合いから考察するものである。 初年度において、中心となる文献の原典の精読が進んだため、次年度以降はそれらを17世紀的な思想史的文脈の中で検討する作業に取りかかる。第一に、世界初の絵入り「教科書」と位置づけられてきた『世界図絵』を、当代の博物学、蒐集と陳列の「驚異の部屋(ヴンターカマー)」、寓意画等の連関から読み直す。 そこから、近代教育学において素朴に事物主義と位置づけられてきたコメニウスの教育思想が、価値観が揺らぎ伝統的知の体系が刷新される中に17世紀の只中において、いかなる意味で事物による教育効果を期待したのか、その内実を明らかにする。 第二に、脚本形式の『遊戯学校』を、修辞学教育や学校演劇のみならず、当時の世界劇場(テアトル・ムンディ)という認識論的背景と、中世以来の記憶術との関連から考察する。以上から、諸価値の移行期の中で、旧来のいかなる知や価値がどのように解釈され新しいものに継ぎ足され「表象」可能とされたのか(あるいは何が「表象」や伝達から消えたのか)を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画段階では、初年度に文献調査のためチェコに渡航する予定であったが、研究を進める中で、文献調査の前に、中心的分析対象である『遊戯学校』のラテン語原典の精読を進め、それに関連した文献調査を行うことが望ましいと判断し、初年度は海外渡航を見送り、次年度の文献調査に使用することとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
当初はプラハの科学アカデミーや図書館、クレメンティヌムなど、プラハのみでの文献調査を計画していたが、今回の文献精読の成果を受けて、それらに加えてウヘルスキー・ブロドのコメニウス教育博物館等、地方の施設の蔵書調査にも足を伸ばす必要があると判断した。そのため、次年度使用額は主に文献調査のために使用することとする。
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