本研究では、近代教育学の祖と位置付けられてきたコメニウス(J.A.Comenius)の教育的提示・伝達形式の成り立ちの特徴を17世紀の文脈のなかで読み解くことを目指した。諸価値の移行期のただなかにおいて次世代に向けて何をいかに伝達すべきかという問いは、現代にまで続く教育学的問いの一つでもある。コメニウスの事例を深く探求することで、現代の教育における表象の問題(現在の社会状況において何をいかに取捨選択し、いかなるものとして世界像を再構成し、それをどのような形式で教えるのか)に対する歴史的参照点を提供するために、本研究では以下の3点に取り組んだ。第一に、コメニウスの教育構想における表象の特異性を明らかにするため、絵入り教科書として位置づけられてきた『世界図絵』と学校演劇の脚本である『遊戯学校』を比較分析。第二に、コメニウスの教育思想における表象の問題が、ひろく表象論一般のなかで、また、一連の教育思想のなかでどのように位置づけられるのかの検討。第三に、17世紀を諸価値の移行期としてとらえた場合、どのようなものとのかかわりの中で「教育」が語られたのかという観点から、コメニウスの主著と位置付けられてきた『大教授学』の中の喩えに着目し、分析を行った。特に、最終年度は、植物や庭園や種子といった喩えの参照系を経由してどのように子どもや人間そのものや教育的行為をコメニウスが語るのか、その説得性を担保するものとして、いかなる論理があるのかを考察した。
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