最終年度は,オンタリオ州のメディア・リテラシー教育と,ケベック州の消費者教育のなかのテレビコマーシャル分析の教材を比較し,両者の特徴を明らかにする課題に取り組んだ。具体的には,両州でそれぞれの教育活動が教育課程に位置づけられた1980年代後半以降の教材に注目した。 教材分析の結果,オンタリオのメディア・リテラシー教育でテレビコマーシャルは,撮影・編集技法や,映像を構成する要素が作り出す意味を解読する学習材として活用される傾向が認められた。それに対しケベックの消費者教育では,テレビコマーシャルが含む商品に関する情報の量に注目させた上で,商業宣伝が消費者の「情報を与えられる権利」を保障しているかについて考えることが促されていた。こうしたテレビコマーシャル分析教材に見られるメディア・リテラシー教育と消費者教育の相違点は,前者が映像理解のためのスキル形成を,後者が消費者の権利という点から商業宣伝の問題を探し出すことをそれぞれ重視していると整理することができる。以上の分析結果は,日本カリキュラム学会大会と日本教育工学会SIG研究会で発表した。 本研究を通して,カナダで作成された教材のなかでメディア・リテラシー教育と消費者教育の要素を融合させた広告学習単元の存在は確認できたが,その融合が理論的・体系的に進められたと評価するまでには到らなかった。他方,広告学習には,目的をめぐる2つのオプション――「個人が合理的な消費生活を営むための知識・技能の獲得」と「いまの消費社会を見直すための知識・技能の獲得」――があることが明らかとなり,後者のオプションが,メディア・リテラシー教育と消費者教育の融合との親和性が高いという結論を得ることができた。
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