研究課題/領域番号 |
26780434
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研究機関 | 大谷大学 |
研究代表者 |
田中 潤一 大谷大学, 文学部, 准教授 (00531807)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 知識生成 / 解釈学 / 道徳教育 / 述語化 / メタファー |
研究実績の概要 |
平成27年度は(1)「ハンス・リップスにおける論理学と知識論の理論的研究」、(2)「解釈学を基盤とした教授理論研究」の2点から研究を推進した。まず(1)に関しては、論文2本執筆と学会発表2回を行った。まず論文について①「ハンス・リップスにおける言葉と教育の問題」(『関西教育学会年報』第39号)では、日常の言葉使用について子どもが類似という契機から言葉を修得するプロセスを論じた。②「解釈学的論理学における知識生成とその超越的根源」(『哲学論集』第62号)では、知の語り方や非人称構文について論じた。とりわけ非人称構文では、「今・ここ」という直接的所与がまず非人称構文で表現され、そこから「述語化」が起こり、そして述語の対象として「主語」が生じるというプロセスについて解明した。学会発表の「解釈学的論理学における知識習得と「語り方」の考察」(教育哲学会第58回大会一般研究発表、平成27年10月)では、解釈学における語り方、とりわけ「隠喩」が果たす役割を論じた。 (2)の教授理論研究に関しては、論文1本執筆と国際学会発表1回を行った。論文に関しては「道徳科の内容と指導法に関する一考察」(『人間形成論研究』第6号)では、現在の道徳の教科化を踏まえ指導法について論じた。指導法では道徳の教材を4類型化し、それぞれの指導法を提示した。また国際学会発表は"The Principle of Citizenship Education and the Role of Teachers in Japan-On the Standpoint of Hermeneutic Philosophy-“(JUSTEC 27th)のタイトルで、道徳の教材の研究、特に実質的知識を踏まえた道徳的価値観の形成について論じた。以上の研究のために、解釈学の文献購入や海外学会への出張を行い研究を推進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は(1)「ハンス・リップスにおける論理学と知識論の理論的研究」、(2)「解釈学を基盤とした教授理論研究」の2点を中心に研究を行った。(1)「知識生成論の理論的研究」においては、「語り方」と「非人称構文」の視点から知識生成の構造を解明しようとつとめた。とりわけ「非人称構文」によって、直接的所与の状態から人間の認識構造(「主語」―「述語」関係)が生じるプロセスを明らかにできたのが、大きな研究成果である。また知識生成の根底を「今・ここ」であるとし、それを「超越」という視座から把握しようとしたが、この点に関しては今後研究を続行したい。 (2)の「教授理論研究」においては解釈学を基盤とした道徳教育に関して研究を進めた。道徳教育において形式的な価値観を児童生徒に伝えるのではなく、実質的価値観(政治的・経済的教養等)を伝えることを意義に関して研究を進めた。また平成30年度からの道徳の教科化に向けた方向性を把握しながら、道徳教育の内容を4類型化し、それぞれの指導法を提示した。今後はさらに指導法(とりわけ「メタファー型」指導法)を詳細に研究する必要があるが、その契機を作ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は引き続きハンス・リップスの知識生成に関する教育哲学研究と教授理論への応用を行いたい。(1)知識生成に関する教育哲学研究では、論理や知識の生成に焦点をしぼって研究を行いたい。とりわけディルタイとの比較研究を行いたい。ディルタイは解釈学の実質的な創始者であるが、論理生成についても考察している。ディルタイと比較することで、リップスの独自性を再考したい。平成28年度日本ディルタイ協会関西大会シンポジウム(7月2日)での発表を予定しているので、以上の研究を中心に発表したい。さらに平成28年度は日本思想との比較も行いたい。これまで西田哲学における知識論を研究してきたが、その研究成果を踏まえ知識が生じるプロセス、人間が知識を修得する構造について研究する。また勤務先の大学紀要にも論文執筆を予定している。 (2)教授理論への応用研究では、国際学会での発表を予定している。道徳教育の教授理論について引き続き研究を行う予定であるが、前年度に研究したメタファー型指導法の研究をさらに進めたい。さらにモリソン・プランやJ・ブルーナー等の理論を参照にして教授理論の類型化を考察し、その上で新たな教授法構築に努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度はハンス・リップスおよび解釈学の文献を計画的に収集し、平成26年度に引き続き研究環境を整えることができた。旅費に関しては海外(アメリカ合衆国)での学会発表を行い効果的に使用できたが、国内での出張が少なかった(1回)ために、想定より少額となった。またその他に関しても、消耗品費の使用頻度が少なく、想定より少額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は海外(アメリカ合衆国)での発表を1回、国内での発表を1~2回予定している。それ以外にも学会参加を予定している。とりわけ海外出張での旅費・宿泊費等の支出を予定している。ドイツ語圏の解釈学関連の文献収集を継続する。さらに日本の教育思想との比較を行うことから、日本思想関連の文献も収集する。
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