研究課題/領域番号 |
26780444
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥井 遼 京都大学, こころの未来研究センター, 連携研究員 (10636054)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | わざ / 現象学的教育学 / 人形遣い / メルロ=ポンティ / 身体哲学 / サーカス |
研究実績の概要 |
平成27年度は、(1)海外での学術調査の進展、(2)国際会議での発表、(3)共著本への寄稿、(4)人的交流の充実、を通じて、順調に計画を遂行することができた。具体的には以下の通りである。 (1)フランスにおける身体哲学に関する研究誌等を読解し、身体的経験の記述、他者との相互作用の分析などに関する先行研究を調査した。平行して、すでに身体実践についての分析を進めてきたパリ第5大学アンドリュー教授らの研究チームに加わり、フランス国立サーカス学校において「わざ」の習得に関する参与観察を行った。 (2)平成27年10月12日~13日にパリ第5大学(Universite Paris Descartes)で行われた国際会議、Conference Reseau international Body Ecology in Physical, Adapted and Sportive Practices にて、人形遣いの稽古に関する個人発表を行った。本会議は、スポーツや身体文化を中心として、新スポーツ、レジャー、自然学校、芸術、健康、ハンディキャップ、瞑想、武術などのテーマのもと、幅広い領域の研究者からなる学際的な組織であり、活発な議論・情報交換により、本研究課題に関する背景的知識を広げることができた。 (3)身体論、教育学に関わる二つの共著本に寄稿し、本研究の成果の一部を公表した。本成果は、日本の教育学における「わざ」研究の蓄積に貢献することになるだろう。 (4)パリ第5大学、パリ高等師範学校、アルバータ大学、コペンハーゲン大学の研究者たちと交流を重ねた。これらはいずれも、現象学、教育学、身体的実践などの研究を遂行している重要な拠点であり、哲学テキストの読解のみならず、具体的実践に足場を置きつつ研究を遂行している。今後も交流を重ねることで、本研究を飛躍的に発展させることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、身体を使った「わざ」の稽古場面の観察・分析を通して、近代教育における知識伝達のあり方を根本的に見直し、新たな「学び」モデルを構築することにある。特に本年度は、日本学術振興会海外特別研究員としての身分を兼ね、パリ第5大学を拠点に研究活動を開始したことにより、以下の2点の大きな成果が挙げられた。 (1)新規フィールドの開拓 パリ第5大学のアンドリュー教授らとの共同研究のなかで、人形遣いの「わざ」に対する比較材料となりうる、新たな調査に着手した。フランス国立サーカス学校(Centre National des Arts du Cirque)における「わざ」習得についてである。継続的に調査を重ねることで、教師との濃密なコミュニケーション、守られ恵まれた環境、自発的な遊びなど、新たな芸術活動を支えうる教育システム、またそれを支える文化的背景が明らかになりつつある。スポーツでもレジャーでもない、「アート」としての活動は、既存のスポーツ教育とも、わざの伝承とも異なる次元において、身体と教育、教育と文化の新しい関わり方を追求する可能性を開くだろう。 (2)人的交流の充実 フランス国内では、パリ高等師範学校におけるセミネール・コロキアムへの参加を経て、現象学研究の拠点・フッサールアーカイブのメンバーとの交流を重ねた。哲学テキストの読解のみならず、具体的実践に足場を置きつつ思索する研究者たちと今後も連携を重ねることで、本研究を飛躍的に発展させられることが期待される。フランス国外では、コペンハーゲン大学およびカナダ・アルバータ大学との交流が挙げられる。特にアルバータ大学は、オランダ・ユトレヒト学派の現象学的教育学を受け継ぎ、哲学・教育学・看護学をつなぐ重要な拠点の一つである。本年度も、共同研究の成果として論文を学会誌に投稿し、現在査読中である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度および29年度は、引き続き日本学術振興会海外特別研究員の身分を兼任し、活動拠点をフランスに置く。本年度と同様、欧米圏での調査、学会およびセミナールに参加する機会が飛躍的に増えることになるだろう。 平成28年度は、サーカス学校への調査の継続および学会誌への投稿、人形遣いのわざに関する国際学会での発表および学会誌への投稿を重ねる予定である。また平成28年6月には、パリ第5大学にて国際会議(2nd International Conference, Philosophy of the Body)を主催する計画を立てている。本会議は、身体哲学に関する日仏間での議論・交流を図るものであり、京都大学から教授を招聘し、日本の身体技法に高い関心を寄せるフランスの哲学者・教育学者たちと交流することで、身体教育に関わる理論的基盤を鍛え上げることが期待される。 平成29年度は、当初の計画通り、本研究最大の目的である「身体的相互行為に基づく学びモデル」を構築する。それまでにフランスで得た調査データも踏まえつつ、また、フランス哲学に関する理論的研究の成果を取り入れることで、身体による学びに関する総合的な考察が可能になるだろう。成果は、『Philosophy of Education』、『教育哲学研究』、『現象学年報』への投稿に結実させる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
参加予定であった国際会議に関して、運営企画の大幅な変更などを受け、参加を見送ったことによる。加えて、国際会議の企画が平成28年6月に定まったため、準備にかかる英文校正などの予算を翌年度に持ち越すことを決定した。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年6月にパリ第5大学にて開催予定の国際会議にかかる経費に充てる予定である。具体的には、発表論文の準備のための英文校正、報告書作成、招聘する研究者の旅費の一部負担を予定している。
|